【福島・沖縄からの通信】

星英雄:いまでも生活・学習環境が破壊されているのに、なぜ新基地か

 「いまでもぎりぎりの基地負担をしている。これ以上はとても耐えられない」。温厚な初老の男性がいった。名護市にはキャンプ・シュワブ、辺野古弾薬庫、キャンプ・ハンセン、八重岳通信所の4つの米軍基地が現にある。名護市民はすでに、米軍基地による被害と抑圧の生活を強いられる毎日を過ごしているというのに、そのうえ新たな基地をなぜ押し付けられなければならないのか。

名護市にある4つの米軍基地(名護市ホームページから)

名護市にある4つの米軍基地(名護市ホームページから)

 「7月18日、安部区からオスプレイが住宅地上空で旋回を繰り返していると通報があり、現地でそれを確認しました」と名護市の基地対策係はいった。

 普天間米軍基地にオスプレイが強行配備された2年前、飛行経路は「できる限り学校や病院を含む人口密集地域上空を避ける」ことや、午後10時から翌朝6時までの飛行は「必要と考えられるものに制限される」などの「日米合意」を交わしたが、米軍は縛られない。我が物顔で名護市・沖縄の上空を旋回しているのが実態だ。米軍が「運用上必要」と判断すれば「日米合意」はあって無きに等しい。アメリカには弱腰で、主権者・国民の人権、生活を顧みないのが安倍政権なのだ。

 名護市にはオスプレイが離発着する、鳥の名前がついた5つのランディングゾーングがある。国道329号線のすぐ横に「レイル」、国立沖縄工業高等専門学校から400メートルの至近距離に「フェニックス」、アフガンやイラクのような砂漠地帯を想定した訓練がおこなわれているというガンダー、そしてグース、カーディナルの5カ所だ。

鉄条網の奥が、オスプレイの離着陸場。車が頻繁に行き交う国道のすぐ脇だ

鉄条網の奥が、オスプレイの離着陸場。車が頻繁に行き交う国道のすぐ脇だ

 オスプレイが飛行訓練している地域には、保育園、幼稚園、小学校、中学校、児童施設、老人介護施設などがあり、市民の怒りと苦情が絶えない。「窓がガタガタ震え、かなりうるさい」( 児童養護施設なごみ)、「うるさい。講義に支障」( 国立沖縄工業高等専門学校 )、「危険なので飛行を止めさせて」といった怒りと抗議が市に届いている。米軍機の騒音は、市民の生活環境、学習環境を破壊し、最も大きな問題の1つになっている。

 「名護市航空機騒音実測記録」がある。名護市が許田、幸喜、辺野古、豊原、久志、瀬嵩、安部の7地区で、2010年10月から2013年9月までの3年間、騒音を測定した貴重な記録が詰まっている。

  新基地建設問題を考える辺野古有志の会(世話人・ 島袋文子ほか)とティダの会(共同代表・山城利正)がまとめて冊子にした。この2つのグループは最も積極的に新基地建設反対の活動をしている辺野古の住民組織だ。活動ぶりは地元紙にしばしば取り上げられている。騒音記録

 名護市の3年間の「実測記録」は、防衛省沖縄防衛局の環境影響評価とそれを「根拠」にした普天間基地代替施設としての辺野古新基地建設の問題点をより明らかにしている。

 オスプレイなど米軍航空機の飛行・騒音が3年間で1万2447回記録されている。「23:27:46(23時27分46秒)」「0:25:07」「1:15:34」「2:22:3」「3:07:40」等々、秒単位の記録は、本来、飛行禁止の時間帯に頻繁に米軍機が飛び回っていることを鋭く告発している。人々が1日の疲れを回復するはずの、安眠の時間帯。青少年が勉学に励み、大人たちが勤労する昼間の時間帯。常時、米軍機の騒音被害を受け、事故の危険にさらされていることがわかる。

 防衛省の環境影響評価書にある5つの地点(辺野古、豊原、久志、瀬嵩、安部)の騒音予測値は、名護市の実際の測定値より15~35デシベル低い。しかし防衛省はオスプレイの実際の騒音を測定しようとはしない。

 さらに重大なことは、辺野古と伊江島の飛行経路の下にある許田と幸喜の2地区については、そもそもアセスメントが行われていないことだ。防衛省はことし5月に作成した説明資料「沖縄における基地問題について」でも、「V字にすることにより、飛行経路が住宅地の上空を飛行しないように設定されている」と、事実に反することを強調している。名護市の「実測記録」は、防衛省が無視している許田で1569回の飛行、95.1デシベル、幸喜で2124回の飛行、94.7デシベルが記録されているのだ。オスプレイ飛行訓練図

 今年3月、名護市議会ではこんなやりとりがあった。大城敬人議員が「実測記録」に基づいて質問した。オスプレイ配備以前の米軍機にくらべ、オスプレイのほうが飛行回数が圧倒的に増え、危険が増している。例えば許田で2.85倍、幸喜で2.30倍・・・にも増えている。

 名護市の企画部長はこうこたえた。「普天間飛行場が辺野古に移設された場合、現状の騒音被害に、さらに普天間飛行場の騒音被害を加えることになり、音環境の保全は不可能である」

 オスプレイの低周波音による健康被害の問題もある。

 仲井真弘多知事の埋め立て承認の経緯を検証する沖縄県議会調査特別委員会(100条委)で、参考人として意見をのべた渡嘉敷健琉球大学准教授は、こう批判する。「航空機の騒音に関しては飛行経路の設定が重要なのに、防衛省は伊江島への飛行経路をアセスから外している。米軍のデータには依拠するが、名護市が実測したデータは平気で無視している。それなのに、どうして新基地建設を強行できるのか」

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