稲嶺進市長の当確が報じられた直後の19日夜、名護市民の声をきいた。「もう、うれしくて・・・」と声を詰まらせた女性。「沖縄の心」の勝利を叫んだ青年。すでに宴たけなわの地域の後援会もあった。稲嶺市長が選挙事務所にあらわれて、市民を前にした「勝利のあいさつ」は感動的だった。
「私は、名護市民の良識を示していただいたと思っています。私はそれをずっと信じておりました。ご支援、ご支持が日を追うごとに高まり、深まり、それをしっかりと全身で受け止めて、今日のこの日を迎えることができました」。稲嶺市長は、指笛、拍手、歓声に包まれた。激しかった選挙戦を、市民とともに闘ってきた稲嶺市長の万感の思いが伝わってくるスピーチだった。
新基地建設に反対する稲嶺市長と市民の勝利を願ってきた1人として、私もうれしい。そして「連帯・共同21」のウェブサイトを訪れてくれる多くの人々とこの喜びを共有したい。
米軍普天間基地の代替となる新基地建設の賛否を最大の争点にした名護市長選挙は、新基地建設反対の稲嶺進市長が再選された。19日の開票結果は、稲嶺候補1万9839票、末松文信候補1万5684票。前回対立候補との差1588票を、今回4155票差にひろげて、圧勝した。この市長選は、新基地建設推進と反対の候補がはじめて正面から賛否を問う選挙だった。だから、新基地建設反対の市民の意志は、これまで以上に鮮明になった。
事実上、安倍・自民党政権と名護の稲嶺市長・市民の闘いだった。安倍首相は2月のオバマ大統領との日米首脳会談で、辺野古に新基地建設を約束した。基地反対運動をテロと同一視する自民党の石破幹事長らは、力ずくで沖縄の自民党国会議員らを従わせ、仲井真知事も迎合した。政府・自民党あげて新基地建設に狂奔する姿を見せ付けた。
戦後69年を迎えても敗戦国そのままに、沖縄を「捨て石」としてアメリカに差し出し忠誠を誓うとは、安倍・自民党政権はどこの国の政権なのだろうかと思わざるをえない。安倍・自民党政権は国政レベルでは「1強」といわれ、秘密保護法を強行し、解釈改憲で集団的自衛権の行使をねらう。横暴をほしいままにしている強大な政府・自民党の強圧を、名護市民が押し返した。琉球処分、沖縄戦、島ぐるみ闘争、復帰運動に連なる、沖縄の抵抗の歴史を思う。
沖縄の選挙には「3日攻防」という言葉がある。かつては「3日戦争」といった。選挙戦最終盤の3日間、相手方の支持を切り崩す激しい攻防が常なのだ。それにしても、名護市民が相手にした政府・自民党は卑劣きわまりない相手だった。
「最終盤は石破幹事長ら自民党の幹部クラスが本土からやってきて、話はカネ、カネ、カネ。謀略ビラと買収が横行したひどい選挙だ」と名護市民が怒りを語ったのは投票日前日のことだった。安倍首相が3000億円もの沖縄振興予算を約束したのを皮切りに、「3日攻防」の初日には石破幹事長がやって来て、500億円の基金を創設するとうそぶいた。新基地建設推進候補が勝てばという、買収作戦だった。
稲嶺市長を誹謗する数種類のビラも全戸配布された。「デマは入りやすく、真実は浸透するのに時間がかかる」と市民の1人は不安をもらした。しかし、水面下で、カネで買収する動き、そして謀略ビラの氾濫に、市民は嫌悪し、怒った。「沖縄の心は売らない」。結局、巨額の札束で名護市民をなびかせようとした政府・自民党は敗北した。
辺野古の新基地建設が浮上して以来、「振興」という名の下に、カネの力で基地を押し付けようとしてきた長年の日本政府の手法が破綻した歴史的選挙になったと思う。 「すべては子どもたちの未来のために、すべては未来の名護市のために」(稲嶺市長)。市長と市民は名護の将来を見据えているのだ。
これほど民意が示されても、問答無用の対応が安倍・自民党政権だ。菅義偉官房長官は20日の記者会見で、選挙結果は受入れず、新基地建設作業を進めていくと強調した。「基地の場所は政府が決めるものだ」とは、石破幹事長1人の言ではない。
沖縄は米軍基地があることで、つねに生命が危険にさらされている。人権が脅かされている。米軍普天間基地の閉鎖・撤去、県外移設が沖縄の民意だ。名護が、沖縄が、自己決定権と民主主義を求めるのは当然だ。
日ごろ、安倍氏や石破氏らは「国民の生命、財産を守るのが政治」と語ってきたのではないか。まさか、名護市民は日本国民ではない、などといえるはずもない。日本政府も米国政府も、民意に従って新基地建設を断念するときではないだろうか。
私は「権力に対する抵抗はウチナーンチュの誇りだ」という稲嶺市長の言葉に強く共鳴する。(当サイト掲載〈稲嶺進:すべては子どもたちの未来のために、すべては未来の名護市のために ウチナーンチュの誇りが新しいまちづくりを進める〉 参照)。強大な権力に抗し、媚びず、へつらわず、誇り高く振る舞う。名護市民もそうだ。名護市民の誇りこそが、巨大な力の安倍・自民党、傍若無人の国家権力を相手にした選挙で、勝利をもたらした要因にほかならない。「民主主義」も「自己決定権」も、誇りがあるからこそ、である。
新基地建設反対の勝利は、名護・沖縄・日本の連帯・共同の確かな広がりと強さを示したことでもあると思う。それをさらに広げたい。名護・沖縄の問題は国民1人1人の問題だと思うから。「すべては子どもたちの未来のために、すべては未来の日本のために」