都知事選が終了した。結果は、事前の世論調査と大差なく、驚くようなことはなかった。だが、この都知事選を脱原発と日本の社会変革、政治変革をすすめる視点から振り返ってみたい。
当選したのは自民党、公明党、連合などの支援を受けた舛添要一氏。２１１万票を獲得した。共産党、社民党などが推薦した宇都宮健児氏は９８万票、民主党、生活の党、小泉純一郎元首相などの支援を受けた細川護熙氏は９５万票だった。維新の会の石原慎太郎元都知事らの支援を受け、極右的な主張の田母神俊雄氏が６１万票を獲得したのは要注意だ。
投票率は、これまでの都知事選で３番目に低い４６・１４％だったが、大雪のせいだけではなかったろう。変わりそうにない選挙結果を見越して、投票に行かなかった人も少なくなかったと思う。人間は「予測」で動く。
今回都知事選の特徴の１つは、「脱原発」をめぐる混乱だ。選挙戦の最中から、そして結果がでた今も、「宇都宮か細川か」の「１本化」論争がある。私は宇都宮氏に１票を投じたが、だからといって「宇都宮に１本化」に組するものではない。もちろん、「細川に１本化」も支持しない。そもそも、「１本化」を促し、支えるだけの運動も政党の構えもなかったから混乱が生じたと考える。
共産党が脱原発法制定運動から離脱した２０１２年夏以降、脱原発運動が少しずつ衰えてきた現実は否めない。この間、２０１２年暮れには衆院総選挙と東京都知事選、２０１３年７月には参院選がおこなわれたが、政党は自陣に「脱原発票」を引き込むことには熱心だった。今回都知事選で、１昨年の「宇都宮選挙」の総括はしないままの共産党、社民党がいち早く宇都宮氏を推薦したのはどういうことか。
宇都宮陣営で、宇都宮氏の当選を確信していた人はどれだけいただろう。宇都宮氏本人も共産・社民両党の幹部たちも、そうではなかったと思う。なぜなら、従来の力関係を変えなければ宇都宮氏が当選ラインに届かないことは明らかだったからだ。残念ながら、力関係を変えるだけの運動の盛り上がりは政党サイドにも市民サイドにもなかったと思う。共産党が「大健闘」と選挙結果を評価していることもこのことを裏付ける。
宇都宮陣営では、直前の名護市長選に関連付けて、「名護のように都知事選で勝利を」という声も根強かった。しかし、名護と東京は違う。
名護市は１９９７年１２月、市民投票で新基地建設反対の意志を示したが、その後の３回の市長選は基地容認派が勝利した。それをひっくり返したのは、保守系の稲嶺進氏が市長候補になり、それを共産党など沖縄の革新が支えることで力関係を変えたからだ。２０１０年、稲嶺市政が誕生し、今年の再選につながった。
原発の問題を都政のなかでどう位置づけるかは議論の余地があるにしても、都政においても国政においても原発問題が最重要課題の１つであることは間違いない。原発は命の問題、つまり社会のあり方の中心問題にほかならない。
２０１１年３月１１日。東京電力福島第１原発事故が発生して、日本社会の雰囲気は一変した。１６万人以上の人々が生活拠点を追われ、事故後３年近くを経た今も、１４万もの人々が故郷に戻れない事実の衝撃は大きい。多くの国民が「いままでの社会でいいはずがない」と考え始めた。細川・小泉両元首相の脱原発の主張は、保守層の中に、原発事故を深刻に受け止める一定の存在があることを物語る。脱原発は明らかに、日本社会の力関係を変えることができる可能性を秘めている。
私は今回の都知事選を通して知った、次の２人の発言に共鳴する。 脱原発を訴えつづけているミュージシャンの三宅洋平さんは選挙戦終盤、細川護煕氏との対談で、「今回の選挙は（脱原発の）仲間づくりだと思う」「選挙が終わったらノーサイド」と語った。
「首都圏反原発連合」のミサオ・レッドウルフさんは「小泉さんの発言は、市民運動では手が届かない保守層に届いたことが大きいし、社会的にも原発問題を語りやすい空気になった」と投票日翌日の毎日新聞にコメントを寄せた。どちらからも、脱原発への強い思いが伝わってきた。脱原発を実現するには「保革の枠」を超えて、人々を大きく結集することが必要だとの考えと思う。
原発を「基盤となる重要なベース電源」と位置づける安倍晋三政権は、舛添当選後、再稼働推進の姿勢をより鮮明にした。
問題は「宇都宮か細川か」ではなく、脱原発を国民的な運動にするために、そして政治・社会の変革に結びつけるためにどうするか、である。次の国政選挙はそう遠くない。安倍・自公政権と対抗できる国民運動、それをつくるために市民と政党は何をするのか。国民的な連帯・共同を追求するときではないか。