【連帯・社会像】

大沼博良:学校はブラック企業以上にブラック 出勤午前6時帰宅午前3時残業代なし

 安倍内閣は「新しい労働時間制度」の導入を決めた。これはかつて「ホワイトカラー・エグゼンプション」として提案されたが実現しなかったものです。これまで勤務時間は、労働基準法にもとづいてしっかりと決められていて、労働時間の上限は週40時間とされてきた。決められた労働時間を超えた時間は残業時間として手当を出しているのが普通である。しかし、「新しい労働時間制度」ではその枠を取り外すというのだ。

 若者を異常な長時間労働でうつ病や退職、過労死に追い込むブラック企業が問題になっているが、ブラック企業は決められた時間以上の労働もタダ働きを強いている。基準になる労働時間を決めないとするのが今回の「新しい労働時間制度」である。当然残業時間というものがないから手当もない。今は、「年収1000万円以上」なんて言っているが、やがてはすべての労働者に適用しようと狙っているでしょう。政府によるブラック企業化の推進だ。

 実は公立学校の現場は、「新しい労働時間制度」そのものの実態がある。

 現在全国の公立学校は、勤務時間は労働基準法にもとづいて勤務時間が決められているが、「公立の義務教育諸学校等の給与に関する特別措置法」によって残業はないことになっている。どういうことかというと、公立学校の教職員はたとえ残業しても残業はなかったことにするということ。

 これってブラックそのものでしょう。

 全日本教職員組合の2012年勤務実態調査(集計6722名)によると、教職員の1ヶ月の平均時間外勤務時間は平日で56時間35分、土日で15時間58分、合計72時間34分であった。当然残業手当はない。だだ働きである。さらに、実態調査では「過労死ライン」といわれる80時間以上は35.6%である。

 埼玉県A市B小学校の警備記録によると、1ヶ月の調べで機械警備のセット時刻が午前3時41分で解除時刻が午前6時24分という日があったという。午前3時41分まで仕事をして帰宅した人がいて、午前6時24分に出勤して仕事を始めた人がいるという事実。まさしく不夜城状態の学校である。

 また、同じ市のC中学校でも午前3時過ぎまで仕事をして帰宅した人がいて、午前6時前に出勤して仕事を始めた人がいる日がひと月に3度あった。同じ記録では、授業のある日には退勤時刻はほとんどが午後9時以降であった。

 全日本教職員組合の調査どおりである。

 公立小中学校では、午前8時30分勤務開始で途中休憩時間を挟んで勤務終了が5時であるのが普通である。勤務時間は7時間45分休憩45分である。

 子どもたちがいる時間の休憩は取ることは出来ない。形式上の勤務時間どおりに仕事をすると、休憩時間なしの8時間30分の労働時間である。

 ここでは休憩時間がなかったのに、あったことにする。これもブラックそのものでしょう。

 管理職の校長が勤務終了だから帰りなさいと言ったとしても、実は終わるはずのない仕事を暗に命じている。勤務時間内に仕事が終わらないのはあなたの能力の問題だと言わんばかりの状態である。

 結果、学校現場の精神的な病気休業者はこの10年で2倍になっている。 精神的なストレスによる自殺者もいる。

 もし「新しい労働時間制度」が法律として決まれば、学校のこのブラック状態は「合法」とされるが、それでいいのだろうか。

 教職員は子どもたちのために善意で時間外勤務を無償でやっているのが実態である。「聖職者」という名の下に半強制的にやらされることもある。子どもたちのためにと思って、日々疲れ果てた体で実践をしても本当によりよい実践が出来ているかは疑問である。

 毎日はつらつで元気で、明るい笑顔で教室の子どもたちと向かいあえるときに、経験の長さに関係なくよりよい実践が可能になってくる。いまはそれが出来ない学校である。

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