【連帯・社会像】

神田健策:秘密保護法と「宮澤・レーン事件」

昨年12月6日、特定秘密保護法が短期間で成立した。しかし、同法に対する懸念は強く法案審議の終盤には大きな反対運動のうねりがまきおこった。同法成立後、100を超える地方議会において廃棄を求める意見書が可決されている。廃棄に向けての運動はこれからだ。

これまで同様の法案が何度も画策されてきたが、国民によって阻まれてきた。しかし、一昨年12月の小選挙区制度のもとで圧倒的多数の議席を奪取した安倍晋三政権は、秘密保護法、靖国神社参拝、消費税、TPP、集団的自衛権、原発稼働など、次々と強権的な姿勢をとっている。戦後70年を間もなく迎えようとしている今日、“戦後レジームからの脱却”が本格的に図られようとしている。海外で戦争できる国家体制をつくることが安倍首相の野望である。

5月6日、札幌の北大構内において「『秘密保護法』廃棄と宮澤弘幸の名誉回復を求める市民のつどい」が開かれた。この事件は「宮澤・レーン事件」と言われるが、太平洋戦争開戦の日、北海道帝国大学工学部2年生の宮澤弘幸さんと北大のアメリカ人英語教師レーン夫妻らがスパイ行為を行い「軍機保護法」に違反したとして逮捕され、宮澤さんは懲役15年、レーン夫妻もそれぞれ15年、12年の懲役刑を受けた。その他に数名の北大生らに懲役刑が言い渡された。宮澤さんは網走刑務所などに収監、第二次大戦後の1945年10月10日に釈放されたが、過酷な拘禁により衰弱し1947年2月22日、27歳で亡くなった。

私は今、東北、弘前に住んでいるが、この事件について詳細を知らなかった。この集会に弘幸さん実妹の秋間美江子さん(アメリカ・コロラド州在住)がお話をするというので、札幌まで出かけてみた。というのも私は北大農学部農業経済学科の卒業生であるがこの事件について少なくとも学生時代(40年以上前)に聞いたことはなかった。ようやく最近、秘密保護法との関係で取り上げられているので知った程度である。まことにお恥ずかしい話である。

この事件については最近、幾つかの本が刊行された。山野井孝有著『引き裂かれた青春 宮澤・レーン「スパイ冤罪事件」』(『登山時報』、日本勤労者山岳連盟、2013年8月~2014年1月を再編集)、上田誠吉『ある北大生の受難―国家秘密法の爪痕』(花伝社、2013年。これは復刻版で、原著は朝日新聞社から1987年9月刊行)、またDVD(『レーン・宮澤事件 もうひとつの12月8日』1993年)もある。この事件が知られるようになったのは故上田誠吉弁護士が1980年代半ば「国家機密法」の企てを阻止するために戦時中の事件を調べる中で遺族(妹の美江子さん)と連絡が取れるようになってからであり、それまで遺族はこの事件について語ることはなかった。

上記本や美江子さんの話しを聞くと、どうみても冤罪事件であることは明らかである。大学生時代、アメリカ人語学教師の家で外国人との交流が好きな学生たちが会合を続けていた。その中で、根室の飛行場について話したことがスパイ行為であると断定された。「敵国」アメリカ人と親しい師弟関係にあることが、見せしめとして利用されたのである。あまりにも酷すぎる。

宮澤さんは旅行好きで登山が好きな青年だった。このような冤罪者を二度と出してはならない。なお、北大当局はこの事件を「冤罪」であることを認め、「宮澤賞」の設立を準備している。一歩前進である。

国民の知る権利や言論の自由を制限し、強いては弾圧立法化しかねない特定秘密保護法を甘く見てはならない。同法は成立したが廃棄に向けての運動が次の課題である。

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