【連帯・社会像】

星英雄:危険と不平等の米軍基地を誰が望むか

 沖縄では、辺野古新基地建設阻止に向けて、名護市民、沖縄県民の反対運動が広がっている。20日には、名護市辺野古の県民集会に約5500人が参加し、政府に強く抗議した。新基地建設で、今以上に米軍機に脅かされる日々を過ごすのは、ごめんだ。

 セスナ機が送電線を切断し、名護市真喜屋のサトウキビ畑に墜落したのは2008年10月24日午後6時30分ごろだった。墜落現場は、国道58号沿い。民家までは50メートルという至近距離、近くには小学校もあった。消防車が出動し消火活動に追われた。帰宅途中の人々や、放課後の生徒ら、近隣住民は大きな不安と恐怖を感じた。

 セスナ機の乗員は4人の米兵らだった。そのうち、2人は重軽傷を負った。幸い住民は無事だったが、もし、送電線に引っかからなかったら、米軍機は民家を直撃しただろうといわれた。下手をすれば、地域住民を巻き込んだ大惨事につながる危険な事故だった。

 事故に対応していく過程で、重大な問題が浮上してきた。事故機は、米空軍第18航空団第82偵察中隊所属のセスナ機だった。軍用機ではなく、米軍嘉手納基地内のレクリエーション組織「カデナエアロクラブ」所属だった。同クラブ所属の同型セスナ機は以前にも不時着事故を起こし、住宅地上空での飛行経路の中止を約束していたが、約束は守られていなかったという。米軍はセスナ機に給油したという当初の説明を翻し、事故原因は 「燃料切れ」とされた。

 事故機は航空法第97条に定める飛行計画を空港事務所に提出していなかった。米軍機に対し、日本の航空法が適用されるのは、航空交通の指示に関する96条、飛行計画とその承認に関する97条、到着の承認に関する98条のわずか3条だけだ。米軍は基地間の移動の際には通報義務はないが、民間空港を利用する場合は97条で、機種や出発・到着時刻、目的地、速度、高度などの飛行計画の通報が義務付けられている。

 事故機は嘉手納基地から奄美空港に行き、そこから戻ってくる途中で墜落した。当然、飛行計画を提出しなければならないケースだったが、そうしていなかった。この事実は、最小限しか適用されない国内法さえ無視して、米軍機が日常的に、いかに好き勝手に飛び回っていたか、恐るべき実態を明るみに出した。

 さらに問題があった。米軍は日米地位協定を盾に、日本側の事故機差押さえ要求を拒否したのだ。事故から26時間後には、機体は解体され、嘉手納基地に運び込まれてしまった。

 公務外の事故は日本側に第1次裁判権がある。だが、立件するためには証拠物件の事故機の差押えが必要だ。しかし米軍は日米地位協定を「盾」に、日本側の差押え要求を拒否したのだ。日米地位協定合意議事録は、米軍が合意しない限り日本側は「合衆国軍隊の財産について、捜索、差押え又は検証を行なう権利を行使しない」としている。レジャー用のセスナ機は米軍の財産だから、日本側の要求には同意しない、といえば証拠物件を差押さえられることはなかったのだ。

 軍用機ではないセスナ機が、公務外で、そして米軍の施設・区域外に墜落したにもかかわらず、日本が主権を十分には行使できない。日米安保条約とそれに基づく日米地位協定がもたらす実態だ。

 米軍セスナ機の事故は、普天間基地所属の大型輸送ヘリコプターが沖縄国際大学に墜落、炎上した事故から4年後に起きた。米軍が現場を封鎖し、事故機を運び出し、県民、国民の批判が噴出した。その後、事故現場の日米共同管理などささやかな改善がされたというが、4年経っても実質は同じだ。名護市議会軍事基地等対策特別委員会の渡具知武宏委員長は当時「現場封鎖、機体撤去など、普天間の事故となんら変わらない」と激怒したという。

 アメリカのシーファー駐日大使(当時)が、名護市議会に寄せた文書がある。セスナ機の住民地域上空での飛行禁止や日米地位協定の抜本的な見直しを求めた名護市議会の抗議決議に対する回答だ。墜落事故から1カ月が過ぎていた。

 シーファー大使はいう。「日米地位協定は何十年もの間アジア地域に平和を保って」「日本が成功し、活気に満ちた民主的社会になるように安全で安定した環境を提供してきました」「第18航空団と沖縄にいる他の米軍は、地域住民や基地居住者の安全確保につとめます。私は、彼らが再発防止に全力を尽くすと確信しています」。住民を恐怖に陥れた米軍機事故の反省はみじんもない。それどころか、いまも支配者然とした雰囲気さえ漂っている。

 時の麻生・自民党政権はそんなアメリカに追随した。中曽根弘文外相は「日米地位協定が捜査の障害となっているとは考えていない」と国会で答弁した。なんという日米両政府なのか。

 セスナ機墜落の翌2009年3月9日、名護警察署は航空危険行為等処罰法違反(過失犯)と航空法違反(飛行計画の未通報)の容疑で、操縦していた米空軍嘉手納基地所属の中佐を書類送検した。2009年3月27日、那覇地検は航空法違反については、嫌疑不十分で不起訴とした。航空危険行為等処罰法違反については30日、中佐を略式起訴。那覇簡易裁判所は罰金20万円の略式命令を出し、即日納付された。

 名護市民を恐怖に陥れ、県民が怒りを爆発させた米軍セスナ機墜落の1件は、こうして幕を閉じた。

 名護市によれば、日本復帰の1972年から昨年までに名護市で発生した航空機事故・事件は墜落3件、不時着5件、ヘリのドア落下、低空飛行訓練に伴う騒音など合計58件を数える。死と隣り合わせの恐怖は米軍基地があるからこそ、である。新たな基地をだれが望もうか。

 

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