臨時国会がはじまった29日午後、安倍晋三首相は衆参両院で所信表明演説をしたが、集団的自衛権行使容認の閣議決定に触れることはなかった。夕刻、大森政輔元内閣法制局長官や長谷部恭男早稲田大学教授らでつくる「国民安保法制懇」は、「集団的自衛権行使を容認する閣議決定の撤回を求める」意見書を政府に提出した。
意見書は、憲法9条に関する政府解釈の変更で集団的自衛権の行使を容認する「本閣議決定は、憲法9条の存在意義を失わせるだけではなく、憲法によって政治権力を制約するという立憲主義を覆すもの」と、強く批判する。
閣議決定にある武力行使の新3要件は、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」には武力行使が可能とするが、日本に対する直接の急迫不正の侵害、という従来の要件とは異なり、明確で客観的な歯止めとはなりえないと指摘する。
閣議決定の論拠とされている「積極的平和主義」についても批判を加えている。「日本政府が『正しい』と考える事態を実現するため、地理的限定なしに実力を行使するという、猛々しく危うい立場と見分けがつかない」。
集団的自衛権の行使容認は、アメリカとの同盟関係を強化し、抑止力を高めるという安倍政権の主張はどうか。逆に、「『テロとの戦い』を遂行するアメリカとの軍事協力の強化によって、日本もグローバルに展開するテロ組織の標的になる危険がある」と意見書は指摘する。
国民安保法制懇は国会に隣接する衆院第2議員会館で記者会見した。メンバーの1人、樋口陽一・東京大学名誉教授は「形式・手続きは日本の社会ではえてして実質より軽くみられるが、法律家にとっては、形式・手続きこそ自由の母であり、手続き・形式抜きの実質論こそ専制政治の父親だ」と前置きしてこう説明した。
安倍政権は憲法改正を実現するために96条を変えようとしたが、その方向が世論の予想を超える抵抗にあった。(日本国憲法第96条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。)
安倍総理は、野党自民党の総裁時代に、(国会議員の)たった三分の1で、国民が決めようとするのに待ったをかけるのは横柄だ、といった。3分の2が成立するまで審議を尽くそうという国会のありかたが横柄だとすれば、内閣の閣議で(集団的自衛権行使を)決めるのは横柄以上。どういう言葉を使えばよいのか。
それで何をやろうとするか(実質論)。集団的自衛権は、他衛権だ。他衛権だが、他国をまもるどころか、しばしば他国の法秩序体系を解体するような介入戦争をもたらしてきた。アメリカのベトナム戦争や旧ソ連のアフガニスタン戦争だ。他を助けたわけではなくて、むしろ他に大混乱を呼び起こしつつ、自国の利益をはかろうとしてはかれなかった。そういう教訓を国民にぜひ認識してほしい。
安倍首相の所信表明演説を本会議場できいた自民党議員は、「潮目がすこし変わってきた」という。議場の自民党席に、これまでの熱気はなかったと。地方はアベノミクスの恩恵は感じない。豪雨などの災害で、疲弊感はなお増している。「消費税10%はどうかな・・・」
国会周辺は終日、「原発再稼働反対」「辺野古新基地建設ノー」「安倍はやめろ」のシュプレヒコールが響いた。