【連帯・社会像】

星英雄:沖縄を「捨て石」にする安倍政権 「抑止力」論と新基地建設の本音

 安倍政権はなぜ辺野古に海兵隊の新基地建設を強行するのか。安倍首相らは「米軍の抑止力の維持」を強調するが、本音はアメリカに見捨てられる不安と恐れなのだ。

 本音の発言を紹介したい。V字型の2本の滑走路の新基地建設案を日本側でまとめた当時の防衛庁長官、額賀福志郎衆議院議員の発言だ。

 「(米軍が)いったん引き揚げたら、たとえば尖閣列島でなにかいざこざがあったときに、ほんとうに米軍が出てくるか」

 尖閣諸島でいざというとき米軍に出動してもらうには、米軍(海兵隊)を繋ぎとめておく必要がある。だから、辺野古に新基地を造る。これが、額賀発言の意味するところだ。辺野古に新基地を造るほんとうの理由を、その時の防衛庁長官が明かした重要な証言だ。

 額賀氏は小泉内閣の防衛庁長官職にあった2006年、当時の名護市長と会談しV字型の新基地建設で合意、そして2プラス2(日米安全保障協議委員会)で米国と合意した当事者だ。証言は2010年4月、米軍普天間基地移設問題をテーマにした早稲田大学のシンポジウムでのことである。

 これまでのアメリカ側の証言も額賀発言を裏付ける。沖縄タイムスと琉球新報が最近、相次いで報じたモンデール元駐日大使の口述記録もその1つだ。「彼ら(日本政府)はわれわれ(在沖海兵隊)を沖縄から追い出したくなかった」と、モンデール氏は証言している。

 1995年、米海兵隊員による少女暴行事件は沖縄の激しい怒りを呼んだ。アメリカは海兵隊の縮小・撤退をも考えたが、日本政府が海兵隊を撤退させないように要望したという。アメリカが辺野古に新基地建設を要求する姿勢はうかがえない。

 モンデール大使は1996年4月に橋本竜太郎首相(当時)と「普天間返還」合意を発表したまさに当事者だ。証言は2004年4月、米国務省付属機関のインタビューにこたえたものだ。

 なぜ辺野古に新基地を建設する必要があるのか。安倍首相をはじめ歴代政権は、本音を隠して「抑止力」論を唱えてきた。海兵隊が沖縄に駐留していることが抑止力だ、と。しかし抑止力論は事実上破たんしている。

 安倍政権は海兵隊の新型輸送機オスプレイを佐賀空港に移転させる考えを表明したが、それはそのまま、海兵隊が沖縄にいなくてもいいことを示している。沖縄に海兵隊・米軍が集中することは、中国のミサイルの射程圏内に入り、かえって抑止力を低下させることになるという指摘は米国に強くある。もとはといえば、沖縄の海兵隊はかつて「本土」に駐留し、沖縄にはいなかったのだ。

 抑止力とはなにか。「ほかの国が日本を攻めたら必ず仕返しされる」(額賀氏)という恐怖感だ。ところがいまアメリカは、アメリカの輸出・経済成長にとってきわめて重要な中国と日本の尖閣をめぐる軍事衝突に巻き込まれたくないという意向を鮮明にしている。アメリカの軍事力に頼ってきた日本政府の抑止力論は根底から崩れているといえる。海兵隊が沖縄に駐留しなければならない理由はどこにもない。

 なぜ安倍政権は海兵隊の新基地建設にこだわるのか。

 「海兵隊がグアムに移転していくのになぜ基地を建設する必要があるのか」とは、だれもが抱く疑問だ。しかし、日本の安倍政権と歴代政権は、考えが方が逆転している。海兵隊が沖縄から撤退する方向であるからこそ、新基地をつくって米軍を繋ぎとめるというのが日本政府の考えなのだ。

 日米同盟の旗を振る日本政府内外の専門家たちは「米軍人質」論を口にする。日米安保条約を結んでいても「いざというときアメリカは日本を守らない」という不安があるからだ。日本の武力紛争にアメリカを巻き込む装置が「人質」というわけだ。

 クリントン政権で国防次官補などを務めたジョセフ・ナイ氏もこういう。「沖縄に駐留する米軍は基本的に「人質」の役割も兼ねている」(『日米同盟vs中国・北朝鮮 アーミテージ・ナイ緊急提言』文春新書2012年)

 ただしナイ氏の発言は、「アメリカは日本を守らない」という日本政府の不安と不満をなだめる意図がある。日本国内に米軍基地を確保できるなら、「リップサービス」はお安い御用というわけだ。ナイ氏はジャパン・ハンドラー(日本を操る人)といわれている。

 なぜ沖縄か。沖縄の土地は日本全体の0.6%に過ぎない。そこに、米軍基地の74%をも押し付けられている。沖縄が「構造的差別」と批判するゆえんである。森本敏元防衛相が在任中に「軍事的には沖縄でなくてもよいが、政治的に考えると沖縄が最適の地域だ」と語ったことは、「構造的差別」をする側の「論理」をあからさまにしたものにほかならない。

 「日米同盟は日本外交の基軸」といい、アメリカの抑止力に頼り切ってきたのが日本政府だ。安倍政権が在日米軍のために年間6000億円近い予算を計上し、地位協定で米軍に特権を保証し、日米安保による「アメリカの日本防衛義務」を強調しても、「アメリカに見捨てられる」という不安を免れない。

 沖縄県民の8割もが新基地建設に強く反対しているにもかかわらず、新基地建設を強行する理由がここにある。沖縄をまたもや「捨て石」にして、米軍を繋ぎとめようというのである。

 こんどの沖縄県知事選で、翁長雄志氏を勝利させよう。それが、日米安保体制・日米同盟とその下での構造的差別に対する痛打となるだろう。沖縄と日本の新たな展望につながるだろう。

 沖縄の基地問題は、すべての日本国民の問題だ。心ある人は沖縄に連帯の思いを伝えよう。がんばれ、沖縄!

星英雄:沖縄を「捨て石」にする安倍政権 「抑止力」論と新基地建設の本音” への1件のコメント

  1. 昭和天皇とマッカーサーは何度も会談しているが、天皇は米軍の駐留を望んだと言われている。その最大の理由は日本が共産主義陣営に入るのを恐れたとの見方がある。事実は定かでないが、星さんの安倍辺野古基地論を読んでなるほどと思いました。来月沖縄知事選挙であるが、私たちは沖縄に基地の大半を押しつけていることを忘れてはならない。今こそ米軍基地の撤去をもっと強く言わなければならない。昔よりトーンダウンしてはいないか。

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