今朝の朝日新聞によると、16日投票の沖縄県知事選で基地問題を重視する県民が増えているという。沖縄タイムス、琉球朝日放送、朝日新聞との合同世論調査の結果だ。「何を一番重視して投票する人を選ぶか」との質問に、45%が「基地問題」と回答した。「経済の活性化」は38%だった。これまでの知事選と比べると、より鮮明になる。「基地問題」を重視する県民は2006年知事選の時は26%、2010年は36%、今回2014年は45%と増え続け、経済の活性化を重視する人は同じく52%、49%,38%と減少傾向が顕著だ。
このことは、当然の成り行きだと思う。仲井真知事が昨年12月、安倍政権の沖縄振興予算と引き換えに名護市辺野古沿岸部の埋め立てを承認したことにたいする批判が反映している。「カネで心は売らない」と、沖縄の人々は激しく反発した。振興策で米軍基地を維持するやり方、アメとムチの政府の手法にたいする怒りだ。
米軍基地の維持・押し付けは差別だ、という沖縄の人々の思い、差別にたいする日本政府への怒りがよりはっきりと表に出てくるようになったのは、建白書のあたりからのように思う。
昨2013年1月、沖縄県内全41市町村長が東京にいって、「オスプレイの配備撤回と米軍普天間飛行場の県内移設断念を求める『建白書』」を安倍晋三首相に手渡した。「建白書」は、オスプレイの配備撤回と、米軍普天間基地の閉鎖・撤去、県内移設断念を沖縄の総意として求めるものだった。「沖縄は米軍基地の存在ゆえに幾多の基地被害を被り、1972年の復帰後だけでも、米軍人の刑法犯罪件数が6千件近くに上る。沖縄県民は、米軍による事件・事故、騒音被害が後を絶たない状況であることを機会あるごとに申し上げ、政府も熟知しているはずである」と、政府に訴えた。
しかし安倍首相は、沖縄の総意を無視し、逆に、名護市辺野古に新基地建設の受け入れを強要し、埋め立てを強行している。
さかのぼれば43年前の1971年11月17日、屋良朝苗主席(復帰後初代沖縄県知事)が「復帰措置に関する建議書」を携えて上京したときも、日本政府に一顧だにされなかった。「建議書」は、日米両政府が沖縄不在のままで返還交渉を進めていることを危惧した琉球政府が、沖縄が望む復帰のあり方をまとめたものだ。ところが、屋良主席が羽田空港に着いた頃、国会では沖縄返還協定が強行採決されたのだ。沖縄の総意は、無視された。72年5月、復帰が迫っていた。
沖縄県民を代表して屋良主席は132ページにもなる「建議書」でこう訴えている。
「戦前の平和の島沖縄は、その地理的へき地性とそれに加うるに沖縄に対する国民的な正しい理解の欠如等が重なり、終始政治的にも経済的にも恵まれない不利不運な下での生活を余儀なくされてきました。その上に戦争による苛酷の犠牲、十数万の尊い人命の損失、貴重なる文化遺産の壊滅、続く26年の苦渋に充ちた試練、思えば長い苦しい茨の道程でありました」
そして続ける。「異民族による軍事優先政策の下で、政治的諸権利がいちじるしく制限され、基本的人権すら侵害されてきたことは枚挙にいとまありません。県民が復帰を願った心情には、結局は国の平和憲法の下で基本的人権の保障を願望していたからに外なりません。経済面から見ても、平和経済の発展は大幅に立ちおくれ、沖縄の県民所得も本土の約六割であります。その他、このように基地あるがゆえに起るさまざまの被害公害や、とり返しのつかない多くの悲劇等を経験している県民は、復帰に当っては、やはり従来通りの基地の島としてではなく、基地のない平和の島としての復帰を強く望んでおります」
「建議書」は米軍犯罪を告発する。「米軍の演習等による流弾事故、米軍人軍属による頻発する交通事故による人身傷害、婦女子が殺傷、暴行されたり、また、原子力潜水艦による放射能汚染、ミサイル発射演習による漁業への影響等々、その数は枚挙にいとまがありません」「沖縄県民は、県民の人権を侵害し、生活を破壊するいわば悪の根源ともいうべき基地に対して強く反対し、その撤去」を要求している。「県民が日本国憲法の下において日本国民としての権利を完全に享受することのできるような『無条件且つ全面的返還』」が沖縄の切なる願いだった。
「建議書」の訴えは、いまも心に響く。国民1人1人が沖縄の思いを受け止めたい。しかし、「建議書」の切実な願いが日本政府に受け止められることはなかったのだ。そして1995年、米兵による少女暴行事件が発生した。2004年、沖縄国際大学に米軍大型輸送ヘリコプターが墜落、2008年には名護市に米軍セスナ機が墜落した。米軍占領下の時代も、「建議書」を経て「建白書」のいまも、「悪の根源」である米軍基地が沖縄を占拠している。なのに、なぜ沖縄が新基地を建設してアメリカに提供しなければならないのか。
復帰後、日本政府は振興策という名のカネの力で、沖縄に米軍基地を押し付けてきた。16日の沖縄県知事選は「沖縄の心」を示す時だ。「カネで沖縄の心は売らない」。