【連帯・社会像】

星英雄:安倍首相の大義なき総選挙と解散権

 安倍晋三首相が21日午後、衆院を解散した。今朝の朝日新聞の世論調査では、この時期に解散・総選挙をすることに「反対」は62%で、「賛成」の18%を大きく上回った。消費増税の延期について「国民に信を問う」という解散理由に「納得しない」は65%に上った。異常な解散・総選挙だ。

 自民党の解散時の議席は295議席、公明党が31議席、合わせて衆議院の3分の2を超える議席がある。衆議院による法案の再議決や、改憲の発議を可能にする議席数だ。ところが、安倍首相は自民・公明の連立与党で「過半数維持」を「勝敗ライン」に設定した。大幅な議席減を見込んだ解散なのだ。

 消費税率引き上げの先送りは、民主党も同じ判断だ。解散の理由にはならない。他方、首相自身「やはり政権の求心力が持つのは長くて3年かな…」と漏らしたという報道もある。支持率の低下傾向がはっきりしてきた。まだ支持率が少しでもあるうちに、解散したほうが得だという判断だろう。

 アベノミクスという安倍首相の最大の売りは、大方の目に破たんがはっきりとみえてきた。物価は上昇を続け、実質賃金は15カ月連続で下がった。消費税の8%への増税で、国民生活は否応なく圧迫されている。アベノミクスがうまくいっているなら、消費増税の先送りはしないはずだ。内閣改造の目玉だった小渕優子ら女性閣僚が2人、辞任に追い込まれた。後任大臣も金銭スキャンダルまみれ。特定秘密保護法に対して国民は依然厳しい。じりじりと支持率が下がる中で、原発再稼働、憲法解釈変更で集団的自衛権行使、関連法案の審議が控えている。安倍政権に不利な状況をチャラにして、新しい土俵をつくりたいという狙いがみえてくる。

 総選挙にかかる費用は約700億円。最高裁が「違憲状態」と判断した「1票の格差」は抜本是正されないままだ。

 アベノミクスや集団的自衛権行使問題などとともに、安倍首相の身勝手な解散の仕方もこの総選挙で問われなければならない。衆議院の解散・総選挙は、首相の好き勝手にさせてよいのか。

 解散をめぐっては現行憲法制定後ほどなくして、現実の政治の舞台でも、憲法学界でも論争があった。現行憲法下の最初の解散は1948年12月、第2次吉田内閣のときだ。69条解散にするために、与野党示し合わせて内閣不信任案を可決して、解散に持ち込んだ。当初は、GHQをふくめて69条が解散の根拠と理解されていたのだ。 第69条は「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。」

 ところが1952年8月、第3次吉田内閣の「抜き打ち解散」は「7条解散」だった。 第7条は「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ」とあり、その第3号に「衆議院を解散すること」と書かれていることによる。

 この解散で失職した衆院議員が憲法違反だと提訴した。しかし最高裁は「高度に政治性のある国家行為」は「裁判所の審査権の外」にあるとして、判断を避けた。以後、自民党内閣は憲法7条によって、いつでも、首相が衆議院の解散を決定できるとしてきた。

 憲法第7条によって解散は無制限にできるという説に、憲法学界では長谷川正安元名古屋大学教授(故人)らが批判の論を展開した。論争の根底にあったのは、天皇の国事行為についての認識の違いだとされている。憲法第4条は、天皇は「国政に関する権能を有しない」と断言している。

 明治憲法では、解散権は天皇にあり、制約はなかった。「衆議院を解散すること」という国事行為に関して、すこしあいまいさがともなうという指摘もある。長谷川は「私には昭和憲法制定当時の、『国体護持』派の思いがそこにこめられているような気がしてならない」といっている(『日本の憲法』第3版、1994年岩波新書)

 小選挙区制、2大政党制のイギリスでは2011年に「議会任期固定法」が成立した。総選挙は原則として5 年ごとの所定の日に固定された。任期満了によらない下院の総選挙は、不信任決議案の可決などの場合に限定された。首相の解散権が大幅に制約されるようになったのだ。「首相が自党に有利な時期を見計らって解散に打って出る例が見受けられ 、解散権の政治的な行使により野党が一方的に不利な立場に置かれることの是非が問われるようになった」ことがあるといわれる〈河島太朗「イギリスの2011 年議会任期固定法」(『外国の立法 254』)〉。日本の議院内閣制のモデルとされてきたイギリスの変化だ。

 日本国憲法は「国会は、国権の最高機関」(第41条)と定めている。だが、小選挙区制導入とともに「強い政府」が目指され、国会は軽くなってきた。解散劇にもあらわれている。1995年、小泉首相は政民営化関連法案を参議院で否決され、衆議院を解散して大勝した。これもきわめて自分勝手な解散劇だった。

 解散権の行使のあり方は今回総選挙の重要テーマだと思う。国民主権の政治を実現する上で、欠かせない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)