【合田寛「一語一会」】

合田寛:解散の大義と初めての「増税」公約

 「税制こそ議会制民主主義と言っても良い。その税制において大きな変更を行う以上、国民に信を問うべきであると考えた」、「代表なくして課税なし。アメリカ独立戦争の大義です」。今回の衆議院解散の記者会見で安倍首相はこう述べた。来年10月に予定していた消費税率の10%への引き上げを、1年半先送りするという方針転換について、国民の信を問う大義があるというのである。

 増税時期の延期は法律を改正すれば可能であり、わざわざ解散する理由とはならない。解散にかけた安倍首相の真意はそこにあるのではなく、長期政権を視野に入れ、支持率が落ちないうちに、しかも野党の足並みがそろわない今が最大のチャンスと考えて断行したものであろう。

 にもかかわらず安倍首相が、解散の大義として増税時期の延期をあげたのは、国民の負担を和らげようとする姿勢を国民に示し、増税で家計が圧迫されている人たちをなだめようというねらいがあるのかも知れない。

 しかし安倍首相のこの公約は、首相の意図とはうらはらに、特別の重要な意味を持っている。 第一に、増税を延期するといっても、1年半後には経済状況のいかんにかかわらず必ず10%に引き上げると言明していることである。果たして1年半後には経済状況が好転しているであろうか。アベノミクスによる精いっぱいの金融緩和にもかかわらず、現状はGDP速報値が二期連続でマイナスという結果なのである。

 その現実を踏まえると、さらにこれ以上アベノミクスを続けても、景気が回復する保証はどこにもない。それどころか、過大な金融膨張がバブルの崩壊を招き、最悪の場合、日本発の世界恐慌を引き起こす恐れも十分ある。そんな状況でも1年半後には必ず消費税を10%に引き上げるというのである。

  第二に、増税時期は延期しても、政府が決めた財政再建目標は堅持することを言明していることである。1000兆円の借金残高を抱える未曽有の財政危機を、基本的に消費税の増税によって再建するという政府の財政再建路線には何の変更もない。

 政府が進める「社会保障と税の一体改革」路線では、2015年の消費税率の10%への引き上げは「改革の第一歩」として位置づけられているにすぎない。2020年度までの財政再建目標に到達するためには、さらなる引き上げが必要とされ、さらに国債残高を減らしていくためには、どうみても20~30%の税率は避けられない。

 増税の延期は当面の負担を軽減するだけで、今後の負担をより一層大きくするものである。公明党が強調する「食料品軽減税率」の導入も、それによる減収を取り戻すためのさらなる税率引き上げが待っていることも見ておかなくてはならない。

 第三に、2017年には消費税率を必ず引き上げるという安倍首相の公約は、初めての消費税増税公約であるということである。民主党政権のもとで成立させられた消費税率を8%、10%へと段階的に引き上げる増税は、もともと政権公約になかった公約違反の増税であった。

 当時野田首相は公約違反を問われ、法案成立後の選挙で民意を問うと逃げた。やがて行われた総選挙で民主党は大敗したが、このことは消費税の増税は国民の信を得られなかったことを意味している。にもかかわらず圧勝した自民党は、国民の信を得られなかった増税路線をそのまま引き継ぎ、実施に移しているのである。いずれにしても今進められている消費税率の10%への引き上げ路線は、これまで一度も国民の信を問われることはなかった。

 首相が消費税問題を解散の大義にあげるのであれば、これらのことをすべて国民に説明し、その信を問わなければならない。そうでなければ「代表なくして課税なし」の言葉は国民に伝わらない。そして私たちは首相の「2017年4月の10%への引き上げ」公約の意味を深くとらえ、正しい答えを出さなければならない。

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