中塚明・奈良女子大学名誉教授の講演録を読んだ。短くて、そして面白い。
中塚さんは、日清戦争や近代日朝関係の歴史の著作で知られ、学術会議会員も務めた。日清戦争に関する中塚さんのおもな著作が、どのような取材に基づいて執筆されたか、それを通して1人の学問研究者の歩んだ道がわかる。治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟近畿ブロック会議での記念講演が『日清戦争120年と現代─ゆがんだ歴史認識をただすために─』の小冊子としてまとめられた。
『蹇蹇録の世界』、『歴史の偽造をただす』、『東学農民戦争と日本』の3つの著作についての話が面白い。『蹇蹇録』は第2次伊藤博文内閣の外相・陸奥宗光が、自ら参画した日清戦争の外交記録。第1級の史料といわれるが、中塚さんの『蹇蹇録の世界』はそこにある「つくり話」も暴いた。
『歴史の偽造をただす』は、日本陸軍の参謀本部が書いた日清戦史の草案を発見したことで、政府の日清戦争史の偽造を明るみに出した。井上勝生氏らと共著の『東学農民戦争と日本』は、日本の侵略に抗して蜂起した東学農民軍に対する日本の皆殺し作戦を発掘し、朝鮮の人々に受け入れられていった平等思想としての「東学」を語っている。
中塚さんは国会図書館の憲政資料室に通い、福島県立図書館の「佐藤文庫」で、「編纂物ではなくて生の史料を見て」歴史を学び、発掘した。
私がとくに面白いと感じたのは、「天衣無縫の自由人」といわれた山辺健太郎と中塚さんの出会いだ。まだ高校教師時代に『岩波講座日本歴史』に 「日清戦争」という論文を執筆できたのは、山辺氏の援助があったからという。
山辺氏に教えられ、研究の教訓にしていることが2つあるという。1、日本の朝鮮侵略の問題を抜きにしては日本の近代史を理解できない。野呂栄太郎の『日本資本主義発達史』にも日本の朝鮮侵略は書かれていない。2、近代日本の天皇制支配下で出版された歴史の本や資料集には改ざんや書き換えがあるので、第1次資料で勉強すること。
出会った人から何を学ぶかは当人次第だ。それにしても、人生は人との出会いであると思う。 (講演録の問い合わせは、電話0742-61-7194)