■安倍首相は2月12日、現在会期中の国会冒頭の施政方針演説で「農協改革」をトップにあげ、「戦後以来の大改革」を行うと述べた。何故、農協改革なのだろうか。
■安倍政権は、昨年から今年にかけて系統農協への批判を強め、農協組織の総元締めであるJA全中の統制を弱めることを画策し続け、4月3日、農協関連法の改正案を閣議決定した。その内容は農協法に謳われていた中央会の機能と役割の規定を削除、JA全中を一般社団法人に転換し、地域農協への監査権限を奪うことにより、末端農協の経営の自由度を高めることを目ざしている。このことによって農協間の競争力を高め、地域農業の再生をはかることが可能だと言う。しかし、これで農協が立ち直り、農家経済が向上するとはどんなに逆立ちしても実現するとは思えない。
■私は、現在の系統農協組織に問題がないとか、改革が不必要だとはいささかも思っていない。むしろ農協組織は全体としてみれば戦後自民党政治の補完勢力であったことは否定できない。10年前の小泉構造改革の目玉は「郵政改革」であった。2005年の「郵政選挙」の後、当時から次は「農協改革」と言われていた。米日の金融資本は郵貯の次は農協の金融(貯金と共済)だと公言していた。
■加えてTPPの推進である。2012年12月の第二次安倍政権誕生後、翌2013年3月15日にTPP交渉参加を決めた。その際、安倍首相は「国家百年の計」に立ち「日本農業を守る」と国民に約束した、それが「アベノミクス農政=強い農業」と言われるものだ。
■安倍政権の目玉経済政策である「アベノミクス」において農業分野は第三の矢である民間投資を喚起する成長戦略に位置づけられている。「世界で一番企業が活動しやすい国にする。」という言葉に沿って、「攻めの政策により、競争力を高め、輸出を拡大し、農業を成長産業にする」と豪語している。「農業・農村の所得を2倍にする」というが、これは必ずしも農家の所得が倍増することを意味しておらず、企業の利益を含めた数値である。
■むしろ今日、輸入米と米交付金の減額により農家の収入は激減しているのが実態である。さらに安倍政権は食料自給率目標を50%から45%に戻すなど、国産での安定した食料生産など考えていない。また、TPPの推進により遺伝子組み換え食品の増加も心配され、生産者の苦難は最終的には消費者にツケが回ることになるだろう。
■アベノミクス農政は圧倒的多数の小規模家族農業の経営と生活の向上など眼中にない。狙いはTPPに対応した農業構造再編であり、企業が儲かればいずれは末端の国民、農業者におこぼれが回ってくるという発想(トリクルダウン理論)である。TPPはこの国のかたちを変える大問題であるので、この間、農業、医療、中小企業関係者などが一体となって大きな国民運動を展開してきた。
この運動の中核的役割を果たしてきたのが国レベルではJA全中、県レベルでは県中央会であった。安倍首相はTPP反対姿勢のJA中央会の態度に憤り、2013年3月のTPP交渉参加表明の時、「全中は共産党や社民党と一緒になってTPPに反対するのか」と語ったと伝えられている(田代洋一『農協・農委「解体」攻撃をめぐる7つの論点』筑波書房、2014年12月、17~18頁)。
■今日、政府は「自治体消滅論」をばらまき、再び自治体の合併をあおり、一方では地方重視の「地方創生」をこの春の統一地方選挙の目玉にしている。しかし、人口減少、高齢化、担い手の不足など、国内農業を大きく衰退させた要因を農協組織のみに向けることは出来ない。戦後の農林漁業政策全体の転換が求められている。国民みんなの共同の課題である。(弘前大学名誉教授)