安倍晋三首相は訪米してオバマ米大統領と日米首脳会談を行い、上下両院合同会議で演説し、日米同盟を華々しく礼賛した。しかし、戦後70年も経た今日、いまさら新たに基地をつくり、アメリカに提供しなければならない日米同盟、日米関係こそ問われなければならない。
安倍首相は、予定になかったオバマ大統領の案内でリンカーン記念館を訪れたり、歓迎行事でオバマ大統領が日本語を連発するなど異例の歓待を受けた。オバマ大統領がこうまで歓迎するとは、首相が持参した”土産”がよほどうれしかったに違いない。
オバマ大統領は共同記者会見で「私たちはグローバルなパートナーだ」と日本を位置付けた。直前に日米両政府が合意した「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)で、日本の役割が質的に変化したからだ。日本がアメリカに要求され続けてきた集団的自衛権を行使し、自衛隊が世界中で米軍を支援することが盛り込まれた。カーター国防長官は、「新ガイドラインによって地理的制限はなくなった」と喜んだ。相対的に力が低下しているアメリカが必要とする軍事面での肩代わりを、安倍政権は買って出た。
それだけではない。安倍首相は辺野古新基地建設をあくまで進める考えを表明し、日米首脳会談は新基地建設が唯一の解決策だと確認するに至った。
安倍首相の”土産”はまだある。議会演説で「米国の『リバランス』を徹頭徹尾支持する」と明言したが、これほどまでにアメリカを手放しで支持し、忠誠を誓うとは。オバマ大統領のリバランス・アジア戦略は、アメリカの国益を最大にする戦略だ。オバマ大統領が喜ばないはずがない。
安倍首相の議会演説は、歴史認識が国際的注目を集めた。安倍首相は第2次世界大戦への「痛切な反省」を口にしたが、「侵略」や「おわび」については語らななかった。アメリカの一部からも、中国、韓国からも厳しい批判を浴びることになった。
しかしこの日の議会演説は、米側と調整した内容だ。そもそも、小泉首相(当時)は靖国参拝したことで議会演説はできなかったが、靖国神社を参拝し侵略戦争であることを認めない安倍首相が議会演説できたのは、オバマ政権のおかげである。これも”土産”の効果だ。安倍首相にしてみれば、アメリカを後ろ盾にすれば、中国や韓国の反発もなんのその。アジアの仕切り役は自分だと、米国議会からアピールしたかったのだ。
アメリカに忠誠を誓って安倍首相が獲得したかったことは、「島しょ防衛」にアメリカを引き込むことだ。中国に力で対抗するにはアメリカを巻き込むしかないというのが首相の考えだ。しかし、新ガイドラインに「離島防衛」を盛り込んだものの、米軍の役割は自衛隊の作戦の「支援」「補完」どまりで、改定前と変わらない。前ガイドラインの改定に携わった元官房副長官補の柳沢協二氏は、「米軍は『支援および補完』だけ。日本を防衛するためのシナリオとして、本当に評価していいものなのか」と否定的だ(東京新聞4月28日)。
安倍首相の媚びるような振る舞いからもわかることだが、集団的自衛権の行使などで「対等な同盟関係」を装っても、日米同盟の従属的本質は変わらない。安倍政権が辺野古に新基地をつくって提供しなければならないことにもあらわれている。今日、進んで他国に基地を提供する国が、世界のどこにあるというのか。
日米同盟の中核をなす日米安保条約は、基地提供条約である。第6条で、米軍が必要とするところはどこでも基地として利用できることになっていて、「全土基地方式」といわれる。首都東京に米軍基地があるのも、沖縄に海兵隊の基地があるのも、これほど国土に米軍基地が密集しているのも、世界に例がない。この異常さに目を閉じて、さらに基地を提供しようとするのが安倍政権だ。「女性の人権が侵されない世の中を実現する」とは、どういうつもりなのか。
いまのところ、安倍政権に対抗できているのは沖縄県だけだ。翁長知事は29日の記者会見で、「政府が地元の理解を得ることなく辺野古に新基地を建設することは不可能だ」と重ねて強調した。自身の訪米についても語った。米国の関係者が沖縄の民意を受け止めなければ「日米安保体制や日米同盟に困難が立ちはだかることを伝えたい」。県民の怒りを背にした保守政治家の覚悟のほどが伝わってくる。
安倍政権の野党はどうするのか。安倍首相は議会演説で、違憲の集団的自衛権関連法案を「この夏までに必ず実現する」とアメリカに約束した。違憲の閣議決定をし、それに基づく「戦争法案」を日本の国会に提出するまえに。国会で多数を占めれば何をやってもかまわないという傍若無人ぶりではないか。この安倍・自公政権にどう対抗するのか。とりわけ革新野党には、対抗戦略を示してほしいと思う。