【連帯・社会像】

池住義憲:憲法違反の『安保法案』の即時撤回・廃案を求める ~~名古屋高裁イラク派兵違憲判決・弁護団声明

6月11日、自衛隊イラク派兵差止訴訟弁護団が「弁護団声明」を出しました。午後4時から名古屋裁判所内の司法記者クラブで 共同記者会見を実施。内河恵一、川口創、中谷雄二、田巻紘子弁護士の4人で、私も元原告の一人として同席しました。 長文ですが、大切な声明ですのでその全文を紹介します。

憲法違反の「安保法案」の即時撤回・廃案を求める  名古屋高裁イラク派兵違憲判決・弁護団声明

           平成27年6 月1 1 日       イラク派兵差止訴訟弁護団

1.政府は、集団的自衛権の行使の実態を国民に隠している

 安倍政権が解釈によって行使を解禁する「集団的自衛権」とは、「自国への攻撃がなされていないのに他国に武力行使をする」、つまり「自国防衛と無関係の戦争に参戦する」ということに他ならない。その際、想定されるのはかつての「国対国」の戦争ではなく、非対称の戦争、いわゆる「テロとの戦い」である。自衛隊が「テロとの戦い」に参戦するというのはどういうことなのか、その実態を直視する必要がある。

 2003年3月に米国主導で始められたイラク戦争も「テロとの戦い」であった。イラクに対し、日本政府は「人道復興支援」名目にして自衛隊を派遣したが、2008年4月17日、名古屋高等裁判所は航空自衛隊の輸送活動について、「米軍の武力行使と一体化しており、憲法9条1項に違反する」との違憲判決を下した。

 名古屋高裁違憲判決は、「テロとの戦い」と称される現代の戦争の実態を端的にわかりやすく指摘している。同判決は、イラクでは「テロリスト掃討」名目の掃討作戦においてクラスター爆弾やナパーム弾などの大量殺戮兵器が使用[注1] された こと、イラク戦争開始後のイラクにおける死者が65万人[注2] に及ぶとの統計もあることを認定した。「テロとの戦い」の実態が市民に対する大量虐殺である、という事実を端的に示している。同時に、同判決は、イラク戦争において多数の米兵も命を落としている実態も認定している。

 現在、国会では、安倍首相が提示する、およそフィクションとしか言いようがない事例を前提にした「議論」が続けられている。自衛隊がどのような戦争に参戦していくかについて、リアリティーのある議論がなされていない。

 集団的自衛権を認めることによって、自衛隊は市民に対する大量虐殺を担うことになる。これが、現代の戦争、いわゆる「テロとの戦い」の実態である。この実態を覆い隠しながら、国家の根幹に関する、国民の生命に関わる問題を強行しようとしている安倍政権の姿勢は、民主主義国家としてあるまじき態度として、厳しく批判せざるを得ない。

 2.安保法案は「他国の武力行使との一体化」は明らかであり憲法違反である

 安保法案では、自衛隊の活動地域について、地理的限定をなくした上で、さらに、自衛隊の活動地域について、武力行使一体化をさせないための枠組みであった「非戦闘地域」の概念を否定し、「現に戦闘行為を行っている現場」以外での活動を可能とする。さらに、弾薬・燃料等の軍事物資を米軍及び他国軍隊に補給することも可能とする。

 しかし、名古屋高裁違憲判決は、イラクで活動を行った航空自衛隊の輸送活動について、明確に憲法違反であると判断した。その理由は、イラク特措法に従えば自衛隊の活動地域は「非戦闘地域」に限られるところ、航空自衛隊の輸送先であるバグダッドは非戦闘地域とは認められないこと、輸送物が武装した米兵であったことから政府見解(大森4要件)に照らし、他国による武力行使と一体化した行動と言わざるを得ないとして、憲法9条1項違反と断じたのである[注3]。

 「非戦闘地域」で活動するとのイラク特措法の下での活動でさえ、他国の武力行使と一体化すると判断した名古屋高裁違憲判決の論理に従えば、非戦闘地域の概念すら否定し、「現に」戦闘をしていない「現場」以外、すなわち戦争の最前線において活動することを予定する安保法案は、明らかに、他国の武力行使と一体化すると判断せざるを得ない。

 また、名古屋高裁違憲判決においては、「現代戦において輸送等の補給活動もまた戦闘行為の重要な要素であるといえること」を大前提として違憲判断が行われた。安保法案が想定する、米国に対する弾薬の輸送などの軍事物資補給は、武装した兵員輸送より一層明確な戦闘行為と評価される。この点においても、安保法案の想定は、他国の武力行使と一体化するものと判断せざるを得ない。

 以上のように、名古屋高裁違憲判決に照らし、安保法案は、他国の武力行使と一体化する内容を含むものであり、憲法9条1項に違反するものである。

 安保法案では、イラク特措法における武力行使一体化を防ぐための「非戦闘地域」という歯止めすらなくし、より直接的な戦闘行為である武器弾薬など軍事物資補給を行うというのであるから、当然、自衛隊が戦闘行為に巻き込まれる危険は飛躍的に増大する。「テロとの戦い」の現場で、自衛隊員が他国の国民を殺し、また殺される事態に直面することは必至である。ひとたび、戦闘行為に参加していると評価される事態に至れば、報復を受けることは避けられない。自衛隊員が戦闘行為の当事者になるのは時間の問題となる。

 政府は、かかる深刻な事態について、まったく国民に真実を伝えていない。「抑止力が高まって戦争がなくなる」などと喧伝しているが、戦争の実態を無視する「虚偽広告」であって、到底認められるものではない。

3.戦争は国民を騙すところから始まる

 イラク訴訟において、イラクにおける航空自衛隊の輸送活動の実績について、情報開示を求めたところ、当初、黒塗りの「開示文書」ばかりが提出されてきた。

 しかし、自衛隊のイラク撤退後、民主党政権への政権交代直後の2009年9月、防衛省は自衛隊のイラクでの空輸活動の実績を全て開示した。この文書により、連日多数の米兵など多国籍軍兵員の輸送をしたこと、その結果、合計2万人以上の多国籍軍兵員を輸送した実績が明らかとなった。

 これに対して、「貨物」において、人道物資と思われるものとしては、2004年はじめに航空自衛隊が最初に輸送をした時の「医療器機」以外、一つもなかった。

 国民向けには、「自衛隊はイラクで人道復興支援をしている」と装ながら、人道支援など、していなかったのである。実際には武装した米軍を掃討作戦の最前線であるバグダッドまで輸送する、という米国の武力行使と一体化する軍事活動を行ってきたのである。

 自衛隊のイラク派兵において、自衛隊の活動内容を「人道支援」だと国民を騙しながら、実際には米軍の戦争を支える軍事活動を行っていた(第一次安倍内閣の時期も含む)のが事実である。

 現在、安倍政権は、安保法案が成立しても「戦争をする国にはならない」と述べたり、「安保法案は憲法上合憲だ」などと喧伝しているが、まったく信用できない。

4.安保法案は即時撤回・廃案を

 自衛隊イラク派兵差し止め訴訟について、名古屋高裁での審理が始まった2006年夏は、航空自衛隊によるバグダッドへの輸送活動が開始された時期であると同時に、第一次安倍政権が発足した時期とも重なる。

 安倍政権は、国会での議論を軽視し、自身が正しいと考える政策を次々断行した。この安倍政権の姿勢に対し、当時、「国会が機能していない」「議会制民主主義が軽視されている」などと厳しく批判されていた。原告・弁護団は、法廷で、「国会が機能していないときだからこそ、憲法を守るためには裁判所が正しく判断する他ないではないか。司法が今、政府の過ちを正す時だ」などと裁判官に厳しく迫り続けた。

 その結果、言い渡された名古屋高裁違憲判決は、第一次安倍政権下、議会制民主主義が機能していない中での司法判断として言い渡されたものである。言い換えれば、民主的な議論を行わず、法の支配を自らの考えでねじ曲げようとした安倍首相が、違憲判決の産みの親とも言い得る。

 現在の安倍政権下でも、同様に民主的な議論の軽視、及び、法の支配の軽視がされている。国会における、安倍首相はじめとする閣僚の答弁はごまかしの答弁ばかりであり、まともな審議がされているとは到底評価できない。これは、安倍政権が、対米公約を最優先し、国会での審議を軽視している結果である。現在の安倍政権において、第一次安倍政権のとき以上に議会制民主主義が機能せず、憲法が蔑ろにされていることが、日々明らかになっている。

 私たちは、まさに、憲法9条に違反する国の行為を日々目撃している。安保法案が万が一にも成立した際には、平和的生存権侵害に対する訴訟が多数申し立てられることになろう。その際、裁判所は先例である名古屋高裁違憲判決にしたがって憲法9条違反を判断することになるであろう。しかしながら、具体的な審理をまつまでもなく、名古屋高裁違憲判決の論理上、現在政府が提出している安保法案の違憲性は、以上のとおり明白である。

 私たち、イラク派兵差し止め訴訟弁護団は、憲法違反であることが明らかである安保法案の即時の撤回・廃案を政府に対して強く求める。

以上

 [注1]  「同年(引用者注:平成16年)11月8日からは、ファルージャにおいて、アメリカ軍兵士4000 人以上が投入され、クラスター爆弾並びに国際的に使用が禁止されているナパーム弾、マスタードガス及び神経ガス等の化学兵器を使用して、大規模な掃討作戦が実施された。残虐兵器といわれる白リン弾が使用されたともいわれる。これにより、ファルージャ市民の多くは、市外へ避難することを余議なくされ、生活の基盤となるインフラ設備・住宅は破壊され、多くの民間人が死傷し、イラク暫定政府の発表によれば、死亡者数は少なく見積もって2080 人であった。」(判決文)

[注2] 「オ 多数の被害者(ア) イラク人  世界保健機関(WHO)は、平成18 年11 月9 日、イラク戦争開始以来、イラク国内において戦闘等によって死亡したイラク人の数が15 万1000 人に上ること、最大では22 万3000 人に及ぶ可能性もあることを発表し、イラク保健省も、このころ、アメリカ軍侵攻後のイラクの死者数が10 万人から15 万人に及ぶと発表した。なお、平成18 年10 月12 日発行の英国の臨床医学誌ランセットは、横断的集落抽出調査の結果を基にして、イラク戦争開始後から平成18 年6 月までの間のイラクにおける死者が65 万人を超える旨の考察を発表している。」(判決文)

[注3] 「(航空自衛隊は)多国籍軍の戦闘行為にとって必要不可欠な軍事上の後方支援を行っているものといえる。したがって,このような航空自衛隊の空輸活動のうち,少なくとも多国籍軍の武装兵員をバグダッドへ空輸するものについては,前記平成9年2月13日の大森内閣法制局長官の答弁に照らし,他国による武力行使と一体化した行動であって,自らも武力行使を行ったと評価を受けざるを得ない行動であるということができる。よって,現在イラクにおいて行われている航空自衛隊の空輸活動は,政府と同じ憲法解釈に立ち,イラク特措法を合憲とした場合であっても,武力行使を禁止したイラク特措法2条2項,活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し,かつ,憲法9条1項に違反する活動を含んでいることが認められる。」

以上

 

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