安倍晋三首相と憲法違反の集団的自衛権行使を支持する作家や自民党議員たちが戦争法案を批判するマスコミの弾圧を主張し、沖縄の尊厳を冒涜する発言をしたことが、世論の批判を浴びている。戦争法案への影響を最小限にとどめたい自民党は異例の速さで関係議員を処分したが、問題の根源は安倍首相その人と、安倍・自公政権にあることは明白だ。
各紙の報道によれば、実態は次のようだった。6月25日、自民党本部で開かれた「文化芸術懇話会」(代表=木原稔・自民党青年局長)がその現場だ。
勉強会と称する「懇話会」は、安倍首相の支持者として知られる作家の百田尚樹氏が口火を切る形でマスコミ批判を展開。大西英男衆院議員(東京16区)は「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番。経団連などに働きかけしてほしい」。井上貴博衆院議員(福岡1区)は「福岡の青年会議所理事長の時、委員会をつくってマスコミをたたいた。テレビのスポンサーにならないのが一番こたえることが分かった」。長尾敬衆院議員(比例近畿ブロック)は「沖縄のゆがんだ世論を正しい方向に持っていくために、どのようなアクションを起こすか。左翼勢力に完全に乗っ取られている」と続いた。
百田氏は「本当に沖縄の二つの新聞社は絶対つぶさなあかん」「もともと普天間基地は田んぼの中にあった。周りに何もない。基地の周りが商売になるということで、みんな住みだし、今や街の真ん中に基地があるだのは誰やと言いたくなる。基地の地主たちは大金持ちなんですよ。彼らはもし基地が出て行ったりしたら、えらいことになる」などと歴史的事実に反する発言を連発した。
首相側近の加藤勝信官房副長官や萩生田光一自民党総裁特別補佐もその場にいて、自民党の勉強会は異様な盛り上がりを見せたという。安倍政権が強行しようとする辺野古新基地建設、集団的自衛権行使の戦争法案が思うに任せないことにたいする側近や自民党議員らのいら立ちがあることはいうまでもない。
琉球新報と沖縄タイムスは編集局長名の「共同抗議声明」を出した。「百田氏の発言は自由だが、政権与党である自民党の国会議員が党本部で開いた会合の席上であり、むしろ出席した議員側が沖縄の地元紙への批判を展開し、百田氏の発言を引き出している。その経緯も含め、看過できるものではない」としたうえで、「戦後、沖縄の新聞は戦争に加担した新聞人の反省から出発した。戦争につながるような報道は二度としないという考えが、報道姿勢のベースにある」と反論した。これこそ、沖縄県民の意志であり、辺野古新基地建設に反対する理由である。
自民党勉強会の悪質なことは言語道断だ。朝日新聞は「これが、すべての国民の代表たる国会議員の発言か。無恥に驚き、発想の貧しさにあきれ、思い上がりに怒りを覚える」、「異論には耳を貸さず、力で踏みつぶせばいいのだという政治家に、国民の生死がかかった判断を委ねてしまうことこそ、最大のリスクだ」と社説で批判した。これには多くの国民がうなずくと思う。毎日、東京の社説も、批判は厳しい。日経、産経の2紙は社説で論じていないが、集団的自衛権行使に賛成の立場の読売でさえ「報道機関を抑えつけるかのような、独善的な言動は看過できない」と批判したことからも、異常さは明らかだ。
安倍首相はどうか。「成り代わって勝手におわびできぬ」と謝罪を拒否した。安倍政権と自民党が陰に陽にマスコミに圧力をかけていることはすでに周知の事実だ。この首相(自民党総裁)にしてこの自民党議員あり。
国政運営の基本を定めているのが憲法だが、安倍政権はその憲法をないがしろにして恥じない。立憲主義に反する政権だ。違憲の集団的自衛権行使を閣議決定し、その法律案として戦争法案を国会に提出した。それを夏までに成立させるとアメリカで約束してきた。主権者国民を無視することこのうえない。
憲法学者、内閣法制局長官経験者、法曹関係者、マスコミが憲法違反の疑いを提起して、安倍首相の思惑が狂い始めた。朝日新聞の今月下旬の世論調査では、戦争法案(安全保障関連法案)について、「賛成」は29%。「反対」が53%と過半数を制した。いまの国会で成立させることについて、「必要はない」が65%、「必要がある」は17%に過ぎなかった。しかし、あくまで成立にこだわる安倍首相の意向で、国会は戦後最長の95日間も延長された。
自民党勉強会の言論弾圧発言は、こうした情勢下でのことである。
国会議員は、落選すればただの人、といわれる。安倍首相と自民党議員が最も恐れることは、選挙で敗北し、政権を失うことだ。自民党議員が落選の危機を覚えるまで国民世論を高めたい。戦後最悪の安倍政権と自民党に、主権者は国民であることを思い知らせないといけない。