対米従属を習い性とする歴代自民党政権のなかでも、これほど露骨にアメリカの意を体する首相はかつていただろうか。憲法違反の集団的自衛権行使は、「日本の安全」のためではなく、アメリカの要求にこたえるためなのだ。このことを安倍首相自身が明かしている。
その瞬間に日米同盟は終わる
憲法で禁じられているから集団的自衛権は行使できない、と拒否するなら日米同盟は終わる──。安倍首相はアメリカのアーミテージ元国務副長官との会談で、こう迫られたことを明かした。安倍首相が首相に返り咲くほぼ2年前、民主党政権下で尖閣諸島をめぐる日中間の抗争が浮上した直後の時期、第90代内閣総理大臣の肩書を付したインタビュー記事だ。まずは「今こそ『戦後体制(レジーム)』の脱却を」と題する文章(『歴史通』2011年1月号)の該当箇所を読んでいただきたい。
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アーミテージ元アメリカ国務副長官とも話したのですが、彼はこう言いました。
「もちろん尖閣は安保条約の対象である。しかし、そう断言する前に聞きたい。日本人は自分たちの島のために自分たちで血を流す決意があるのか。その決意のない国民のために私たちも血を流すことはない」
これは当然の発言です。もう一つ、彼が言ったのは「アメリカの軍艦と日本の軍艦が尖閣諸島周辺の公海をパトロールしているときに、アメリカの艦船が中国の攻撃を受けたら日本の自衛艦は助けることができるのか」。もしも、それは憲法上許されていない「集団的自衛権の行使」にあたるからと拒否したら、その瞬間に日米同盟は終わるとアーミテージは言いました。しかし、現実にそういうことが起こったら海上自衛隊の諸君はきっと助けなければと呻吟するでしょう。彼らにそんな重い判断をさせるのは間違っています。それは国会と内閣の責任です。
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ここで重要なことは、①アーミテージ氏は、日本の憲法に反することを承知のうえで集団的自衛権行使を安倍氏に要求し、拒否すれば「日米同盟は終わる」と迫ったこと②安倍氏も、憲法違反を自覚しながら(自衛隊に呻吟させないとして)「国会と内閣の責任」で集団的自衛権行使に道を開く決意を固めたことだ。
いま国会で議論されている安保関連法案(戦争法案)めぐる日米の思惑、動機と狙いが、実に端的に示されていると思う。「日本防衛」ではなく、日米同盟を維持するため米軍の活動を自衛隊が支える──これが安倍首相の動機と狙いである。
こうして安倍首相は昨年7月、集団的自衛権行使を認める閣議決定をし、ことし4月に米国議会でアメリカに忠誠を誓い、その後安保関連法案(戦争法案)の国会提出へと突き進んできた。
ジャパン・ハンドラー
アーミテージ氏は「ジャパン・ハンドラー」の代表的人物だ。「ジャパン・ハンドラー」とは、アメリカの国益実現のために「日本を操る人」をいう。アーミテージ氏が中心になって作成された対日要求書「アーミテージ・レポート」は2000年、2007年、2012年の3度公表され、「日米関係のバイブル」といわれるほど自民党の国会議員らに尊重されてきた。その内容を日本の政権は実行に移し、有事法制、防衛庁の省への昇格、そして安倍政権で特定秘密保護法、日本版NSC(国家安全保障会議)の設置などが実現されている。
安倍首相が集団的自衛権行使の例として挙げる2つのケースもアーミテージ氏と米政権の要求だ。アメリカの艦船が攻撃を受けたら自衛隊が武力行使で反撃する米艦「防護」の場合だけでなく、ホルムズ海峡の機雷除去も、「アーミテージ・レポート」に明記されている。安倍首相が国会の答弁で説明できないのも無理はない、「日本防衛」ではないのだから。
この異様な日米関係。憲法には縛られず、アメリカには従うという安倍首相の倒錯した信条。これらを、受け入れるわけにはいかない。
中国への対抗心と軍事力信奉
「日米同盟は終わる」というアーミテージ元国務副長官の言葉が効果的だったのは、安倍首相の中国に対する強い対抗心によるところが大きい。
オバマ政権はアジア重視戦略を掲げてはいるが、軍事予算の削減や米国内の厭戦気分の広がりもあり、アジアにおける米軍プレゼンスが低下するかもしれない。アメリカが日本より中国に傾斜するかもしれないという不安が安倍首相には強いという。
アメリカの期待にこたえることで、アメリカを日本に引き付けておく狙いが安保関連法案にあると、自民党安保関係国会議員は指摘する。辺野古新基地建設をアメリカに提供するのもその一環だ。
しかし、アメリカは自国の国益のために動く。アメリカは中国の海洋進出などをけん制するのに日本を利用しつつ、軍事衝突は回避したいのが本音とみられている。安倍政権の過剰な対応がもたらす日中間の紛争に巻き込まれたくない。貿易面など中国との相互依存関係は深まり、ケリー国務長官が「米中関係は世界で最も重要だ」と強調したこともある。安倍政権ほど軍事偏重ではない。
磯崎首相補佐官は正直な人間なのかもしれない。内閣の一存で、勝手に憲法解釈を変えてなお、「法的安定性」があるといえるはずがない。安倍首相が「アメリカの戦争に巻き込まれることはない」などといっても、アメリカ次第なのは湾岸戦争後の日本の歴史が示している。
アメリカの本来の要求は「制約のない集団的自衛権行使」と「憲法改正」だ。アメリカの「対テロ戦争」で、アメリカの求めるままに自衛隊が後方支援(兵站)し、武力行使できる日本にする。そのためには、憲法9条を取り払うことが次のステップになる。安倍首相が「当然の発言」といってアーミテージ氏と一致したのは、日米がともに血を流す同盟国になることなのだ。
安倍首相は米議会で、アメリカの戦略を支持し、日米同盟を強化するために「安保法制の充実に取り組んでいる」と演説した。インタビュー記事にみるアーミテージ氏との会談からこの演説まで、構図はまったく同じである。安倍首相の「主人」はアメリカだ。
安倍政権が掲げる「日本を取り戻す」というスローガンは、「中国に対抗できる国」になることが目標という。安倍首相の中国への対抗心と軍事力信奉は、いやでも軍事大国アメリカに従わざるを得なくする。
日本は主権国家なのか。日米同盟とは、日本の安全保障政策と日本の進路は・・・。皮肉にも安倍政権の存在こそが、われわれ1人1人に考え、闘うことを求めてやまない。主権者はわれわれ国民なのだ──と。
前の小泉はポチといわれた。
この徹底した安倍を何と呼べばいいのだろう。
日本をアメリカの一兵卒にしてはならない。