米軍キャンプ・シュワブのゲート前では沖縄の人々が、激しい怒りの抗議行動を展開していた。「新基地建設止めるぞー」「全国の力で止めるぞー」「安倍の独裁許さない」などのシュプレヒコール。「違法工事中止せよ」「新基地NO」「NO BASE」などのプラカードを手に、人々が米軍基地を取り囲んだ。
これに対し、米軍基地内に待機している日本警察のパトカーがデモ隊に退去を求めたのを合図に、機動隊がデモの隊列に割って入った。抗議のデモ行進を妨害した。「弾圧は許さんぞー」と怒りは増す。
この日29日朝、沖縄防衛局・安倍政権が辺野古新基地建設のための埋め立て本体工事に着手した。私は午後の航空機で東京に戻ることになっていたが、島ぐるみ会議のバスでゲート前に駆け付けた。わずか1時間ほどしか現場にいることはできなかったが、沖縄の怒りと悲しみを少しは共有できたように思う。
安倍政権の強権発動は、翁長雄志沖縄県知事が埋め立て承認を取り消したことへの対抗策だ。一方、翁長知事は記者会見でこういった。「承認取り消しについて、法律的に最終的な判断が示されないまま工事が強行されたことに激しい憤りを禁じ得ない」。さらに、「沖縄の人々の気持ちに寄り添う、と言っているが、一連の行動からそのような意思はみじんも感じられない」と、沖縄県民を人とも思わない安倍政権を痛烈に批判した。
政府が、行政不服審査法に基づく埋め立て承認取り消しの「効力停止」と、地方自治法に基づく「代執行」手続きの開始を打ち出したことに、世間の批判は強い。
普通の国民の権利救済制度である行政不服審査制度を国が利用して、同じ政府内の防衛省(沖縄防衛局)が同じ政府内の国交相に知事の承認取り消しの「効力停止」をさせる。これが「出来レース」でなくて何なのか。
行政法研究者93人は、国交相が「恣意的に執行停止・裁決を行おうというもの」「不公正であり、法治国家にもとるものといわざるを得ない」と批判した。この安倍政権のやり方を「行政ファシズム」と批判する学者もいる。
代執行手続きには、知事の権限を奪い取り、安倍政権の意のままに辺野古新基地建設を強行する狙いがあるといわれる。日本国憲法が禁じる集団的自衛権の行使を、内閣の一存で解釈を変更して恥じない安倍政権は、手段を選ばない。政権に従わない地方や国民が存在を許されない日本にしてはならない。
沖縄は負けない。
地元紙琉球新報はこの日、安倍政権が本体工事に着手したことを知らせる号外をモノレールの駅で配布していた。「国、民意無視し強行」の見出しが目に付く。「普天間飛行場の返還合意から19年が経過し、県や地元名護市が現行の移設計画に反対し、見直しを求める中での強行的な着工」と、安倍政権を厳しく糾弾している。
ゲート前では、「翁長知事が知事権限で政府に毅然とした対応をすれば、政府は本体工事に入れない」との訴えがあった。
「本体工事」といってもまだ基地内で、資材置き場などに使う作業ヤードを整備した段階だ。
ゲート前に向かう島ぐるみ会議のバスの中。沖縄の各地から、そして東京から来た人たちがいた。
沖縄の男性。「1人1人の力は大きくないが、みんなで力を合わせて安倍政権の横暴、独裁的やり方を止めよう。みんなで力を合わせれば思いは届くと思う」
これも沖縄の男性。「理不尽なことは長続きしない。日本、世界の世論を喚起しよう。沖縄はまだ土砂1粒も入れさせていない。自信を持って反対していこう」
「翁長知事は民意に沿って一生懸命闘っている」との声もあった。沖縄の女性が「勇気が湧いてきた。選挙がわたしたちの出番だ」と応じた。
停滞していた辺野古新基地建設が動き始めたのは、第2次安倍政権が発足してからだ。2013年2月の日米首脳会談で安倍首相は米軍普天間基地の辺野古移設をオバマ大統領に約束した。アメリカに急かされ、それに積極的に応じる安倍政権なのだ。
沖縄の米軍基地は米軍占領下で、力づくで造られたものだ。安倍政権の強権発動は、力づくで県民を従わせた敗戦・占領下の米軍と変わらない。戦後70年を経たいま、自国の領土と住民をアメリカに提供するとは、いったい世界のどの国がなしうるというのか。自国民の生命と人権を踏みにじることは、いかなる意味でも安全保障政策とは無縁である。
米軍キャンプ・シュワブのフェンスに横断幕が張られていた。「日米は合意しても沖縄は合意していない」。黄色の地に朱色の文字が鮮やかだ。辺野古新基地建設に反対する県民の不屈の意志がこめられている。
沖縄の怒りが鎮まることはない。沖縄の不服従の闘いは続く。