消費税増税法案が国会で成立したのは8月10日、ちょうどロンドンオリンピックでなでしこジャパンや女子レスリングの選手たちがメダルを争っていたころである。あまりにも簡単にとおってしまったというのが私の実感である。これまではこういう国民に大きな負担を求め、生活に重大な影響を及ぼす法案は、たとえ与党が議会で多数を占めていたとしても、簡単に通るものではないと思っていたからである。
消費税の導入以来、これまでの消費税増税をめぐる攻防を振り返ると、列島を揺るがすほどの国民の反対運動が渦巻き、何代もの内閣を犠牲にして、やっと成立するという経過をたどっている。しかもこれまでは3%の税率で導入した時も、5%に引き上げた時も、消費税増税による増収と同等かそれを上回る減税とセットになって提案されており、一方的な増税のみの法案ではなかった。今回の増税は5%もの大幅引き上げであり、世帯の負担増は税以外の負担増と合わせ、年間30万円から40万円にも達するという大増税である。
この大負担を国民に飲ませるために考え出されたのが、「社会保障と税の一体改革」という名のマジックである。消費税はすべて社会保障の財源にあてるというのが第一のマジックである。しかし次第に明らかになったように、社会保障の財源に回るのは5%のうちの1%分にとどまり、残りの大部分は公共事業などの財源となるのだ。
もう一つのマジックは消費税増税によって財政再建の達成をはかるというものだ。5%程度の増税で日本の財政が立ち直るわけがないので、それは二次、三次の連続増税を意味しているのであるがそれは隠している。第一のマジックと第二のマジックを重ね合わせると、1%分の社会保障が20%、30%もの増税を呼び出す、大魔術師も顔負けの本当に怖いシナリオが浮かび上がる。
しかしそもそも財政再建に対する政府の姿勢は信用できない。法案成立の際取り交わされた民主・自民・公明の三党合意によって、増税による税収は「成長戦略」などにも機動的に投入できるという修正が加えられた。増税法案成立後、その財源をあてにして、さらなる大企業減税や総額200兆円という新たな巨額の公共事業計画が浮上している。本当に財政再建を考えているのなら、こうした議論の出る余地はないはずではないか。 マジックで真実を隠すのではなく、原点に返ってまことの言葉で税と財政の議論が始まることが期待される。