【連帯・社会像】

星英雄:米軍に基地を提供する義務はない 基地全面撤去を求める沖縄にこたえる道

 沖縄は連日怒りの声をあげている。沖縄の琉球新報や沖縄タイムスは1面で「基地全面撤去」の大見出しをつけて米軍属(元海兵隊員)による女性殺害(容疑)事件を報じている。基地全面撤去が沖縄県民の総意になりつつある。

 戦後71年、米軍統治の時代も日本復帰後も、米軍関係者による凶悪事件は後を絶たない。事件のたびに、米軍の綱紀粛正や再発防止策がいわれるが、事件は繰り返される。

 「残された選択肢は基地の全面撤去しかない。『もう謝罪も何もいらないから、沖縄からさっさと出て行ってくれ』と怒りを込めて訴えるしかない」(照屋寛之・沖縄国際大学教授、琉球新報5月23日付)は、沖縄の人たちの心からの叫びだろう。

 米軍基地と日米安保条約について考えてみたい。

 なぜ沖縄にこんなにも米軍基地があるのだろうか。「沖縄差別だ」と、沖縄の人々はいう。それはその通りだと思う。沖縄に基地を集中させることで、多くの日本国民に基地とそれにまつわる基地被害から目をそらせることができる。痛みを感じないようにしておくことができる。

 ではなぜ、沖縄を含む日本に、こんなにも米軍基地があるのだろうか。それは、日米安保条約に基づいて日本の政府がアメリカに基地を提供しているからだ。

 沖縄にある米軍基地も本土にある米軍基地も、提供の根拠とされているのが、日米安保条約(正式名称は「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」)第6条だ。そこでは①日本の安全に寄与②極東における国際の平和と安全の維持・寄与のため、米軍が施設・区域を使用できるとされている。

 事件のたびに問題とされる日米地位協定は日米安保条約第6条に基づく取り決めだ。

 日本政府は、日本がアメリカに基地を提供するのは、アメリカが日本を守る義務があるからだ、としている。外務省は「『米国は日本を防衛する義務を負い、日本はそのために米国に施設・区域を提供する義務を負う』。このことが日米安保体制の最も重要な部分といえる」と説明している。

 しかし、日米同盟強化をさけぶ自民党や民進党の国会議員たち、政府関係者は、「いざというときアメリカが日本を守る」とは思っていない。これが現実だ。

 ここでは、森本敏元防衛大臣のケースを通してみておきたい。

 森本元防衛大臣は、米軍普天間飛行場の移設先について「軍事的には沖縄でなくてもよいが、政治的に考えると沖縄が最適の地域だ」と発言したことで、とくに沖縄ではよく知られている。

 しかし、実は森本元防衛大臣は、日本の外交・安全保障の基軸とされてきている日米安保条約を否定して防衛大臣(防衛庁長官)に就任した初めての人物だ。公開の場で、公然と「安保条約は紙切れだ」といってのけたのだ。

 森本氏が防衛大臣に就任する3か月前の2012年3月、東京・秋葉原で防衛省主催の日米同盟シンポジウムがあった。森本氏はこういった。

  「条約というのは何が書いてあろうとも、そして(日米安全保障)条約に基づいて何百回、(アメリカが)貴国(日本)を守ると約束しても、それは一片の紙に過ぎない」

  「本当にアメリカが日本を守るかどうかは、アメリカにとって日本を守ることがアメリカ国家とアメリカ国民にとって真に利益だと感じるときしかない」

  日本と米国が国家として取り決めた日米安保条約に基づいて、アメリカが「日本防衛」を何度も約束したとしても、アメリカが「日本防衛」のために実際に行動することはない。これが、日米同盟を御旗に、基地やオスプレイを押し付ける防衛大臣の本音なのだ。

 このシンポジウムにはパトリック・クローニン新アメリカ安全保障センター(CNAS)上級顧問が参加していた。当然のこととして「アメリカの日本防衛のコミットメントは磐石だ」と発言した。アメリカの有数の日米同盟専門家のクローニン氏が「アメリカは日本を守る」といったことに真っ向から反論したのが森本氏だったのだ。

 日米安保条約を否定する人物が防衛大臣に就任した前代未聞の事態である。しかし、新聞をはじめ報道各社からそのことを問われることはなく、国会でも野党に追及されることはなかったのである。

 森本氏は防衛大臣退任後もこういっている。「日本の安全保障政策に従事している人たちのなかで、日本の施政下にある領域で何か事が起こった際、すぐさまアメリカが自動的に助けてくれるなどと思っている人はほとんどないと思います。米国は国益を考えて行動する国であり、条約や法律だけで動く国ではありませんので」(『WiLL』2014年7月号)

 旧安保条約は、占領支配の継続として米軍に基地を提供するものだった。現行安保条約を締結した岸信介首相から現在に至るまで日本政府は、「アメリカの日本防衛義務」をことさら強調してきたが、じつは「いざというとき、アメリカは日本を守らない」と思っている。日本に米軍基地を提供する義務はないことになる。

 しかし問題は、ここで終わらない。普通の国民なら、「アメリカが日本を守らないなら、基地を提供する必要はない」と考えるだろう。日米安保条約の趣旨に照らせば、当然だ。ところが、森本氏ら「日本の安全保障政策に従事している人たち」はそうではない。森本氏のように「アメリカが日本を守るかどうかは、アメリカにとって日本を守ることがアメリカ国家とアメリカ国民にとって真に利益だと感じるときしかない」と考える。

  「日本を守らないアメリカ」に認めてもらえる日本になるには、「日本がさらなる犠牲とコストを払わなければならない」というきわめて倒錯した考えに立つ。

 森本氏は昨年10月、中谷防衛大臣に請われて防衛大臣政策参与に就任した。防衛大臣に意見を具申し進言する役目だ。

 こうして日米同盟は強化されていく。安倍首相が憲法違反の安保関連法(戦争法)を強行し、辺野古新基地建設をあくまで沖縄に押し付けようとしていることも、この文脈に沿ってのことだ。米軍基地は戦利品と考えるアメリカと、アメリカの軍事力に頼る日本政府によって、人間の命と人権が軽んじられる。

 沖縄の全基地撤去要求にこたえるためにも、日米安保条約・日米同盟について国民的な議論が必要となっている。

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