【連帯・社会像】

平塚治男:戦争法反対、原発ゼロの「運動の中に共闘を形成する」地道な努力を

 都知事選挙について、私も、概ね星さんと同様の見方をしているのですが、より悲観的です。選挙後の様子からすると、現在の所謂「4野党プラス市民の共闘」の枠組みにおいては、星さんが求めている選挙戦の経緯についての説明責任を果たすことや敗戦についての真摯な総括をすることも、満足のいくものになることはないでしょう。政策、運動方針が不明瞭なまま選挙戦を開始したのですから、総括する立脚点も曖昧なものにならざるをえないからです。それぞれの団体が、各々の思惑で説明し、総括することになるのでしょう。

 まして、星さんの提案のような次期都知事選への取り組みも、現在の所謂「4野党プラス市民の共闘」の枠組みにおいては、踏み込んで検討することはないでしょう(そんなことは、星さんは、先刻承知だからこそ、正論を対峙させているのかも知れませんが)。したがって、現在の延長線上では、星さん言うところの「次はない!」と思われるのです。

 星さんは、志位氏、小池氏の煽る演説に、「途方もないことを言い出す人たちだと思った。」ということですが、これまでの戦争法反対運動の中で、運動を鼓舞するためなのか、日本共産党の幹部の方々の地に足のつかない発言が目につくと思ってきました。その最たるものが、「市民革命(的)」という言葉です。

 例えば、昨秋日本共産党が、「戦争法廃止の国民連合政府」を世に問い、各界の著名人と懇談を持ちましたが、10月2日鳥越氏と懇談したことが赤旗紙で伝えられ、その記事では、戦争法案反対のデモで示された国民のエネルギーについて、志位氏は「一種の『市民革命』につながるものであり、だからこそ私たちも『国民連合政府』の提起を行いました」と述べたとされています。

 このような例は、枚挙にいとまがないのですが、さらにいくつか例を挙げます。

①しんぶん赤旗紙上での「立憲デモクラシーの会」の中野晃一氏との新春対談の中で、「戦争法に反対するたたかいは、一人ひとりが主権者として、自分の頭で考え、自分の言葉で語り、自分の足で行動する、自由で自発的な行動がおこったという点で、戦後かつてない新しい国民運動といえると思います。もっと言えば、日本の歴史でも初めての市民革命的な動きが開始されたといっていい。」

(この発言は、もしかしたらこれまでの共産党員は、自分の言葉で語らず、自由で自発的な行動ができなかったとも聞こえますから皮肉です)

②4月、参院選方針決定の五中総という会議での志位氏の報告では、「昨年から今年にかけて日本で起こっているうねりは、日本の歴史でも初めての市民革命的な動きの始まりにほかなりません。それは、前途に紆余曲折があったとしても、必ず新しい政治を生みだす力となって働くことは疑いありません。」

③6月15日の参院選全国総決起集会の志位氏の報告では、赤旗読者の次のようなメールを肯定的に紹介しています。「……こんなにワクワクした展望溢れる選挙は21世紀に入って初めての様な気がします。……日本中が改革の嵐にあるような気がします。……《市民革命》の一端に参加する喜びをかみしめています。……日本近現代史に特筆される希代の《市民革命》の勝利に貢献できることを誇りに思います!」

 私は、戦争法反対の闘いに「シールズ」、「ママの会」、「学者の会」が新たに立ち上がり、運動の中核を担い、運動に参加する多くの人々を鼓舞したことは間違いないと思っています。私自身大いに勇気づけられました。しかし、デモ、集会の規模は、60〜70年のベ平連のデモや各地の商店がストまでして反対した60年の安保改定反対の闘い、さらには、1950年代の水爆実験反対署名の運動と比較して、私は、極めて初歩的な成果だと思っていました(無論、客観情勢の切迫度は戦争法が、際立って高いことは承知していますが)。

 私は東京の事情は分かりませんが、京都でも、一貫して戦争法反対を粘り強く闘っている人々もかなり居ります。しかし、残念ながらこの半年余りの経過で、志位氏の言う「市民革命的」運動が進展しているようには思えません。

 もっとも、戦争法反対運動のどこが、「市民革命的」なのかの説明は殆どされていないので検証のしようがありません。日本革命の綱領を持ち、科学的社会主義を標榜している政党が、戦争法反対運動の盛り上がりの雰囲気だけで、「市民革命的」という言葉を使っているはずはないと私は思っているのですが、よく分かりません。

 上にあげた例③のメールの主は、赤旗などから党幹部の言説をわがものとするまじめな方なのだと思います。しかし、革命前夜の疾風怒濤の情勢に身を置きたいというような情勢認識は私とは大きく異なり、私は間違っていると思います。しかし、そのような方のメールを無批判に引用する志位氏にも大きな疑問を感じます。

 私は、広範な市民の運動が、野党の共闘を促し、広範な市民を中核とした運動体が政治を動かすのかなと、昨夏期待しましたが、秋になると市民運動の拡大は進まなくなり、息切れ状態になったと理解しています。そこで政治を市民自ら担うのではなく、餅は餅屋のごとく野党の共闘を大きく打ち出し始め、票の欲しい民進党と運動を少しでも前進させたい共産党の野合ともいわれる共闘が成り立ってきたと、私は見ています。

 市民運動は、もとより、民進党に戦争法反対の立場に立ち切らせる力は持っていなかったのです。私は、過去の高揚に寄りかからず、戦争法反対、原発ゼロの「運動の中に共闘を形成する」地道な努力をつづけることが正道だとおもっています。

 私は、今後も、枯れ木も山の賑わいよろしく市民運動に合流していこうと思っています。

(本投稿は、〈星:野党は都民に説明する責任がある 都知事選の敗戦に真摯に向き合うべきだ〉に対するコメントとして書かれたものですが、独立の記事として扱いました)

平塚治男:戦争法反対、原発ゼロの「運動の中に共闘を形成する」地道な努力を” への2件のコメント

  1.  平塚さんのご意見は、市民運動と政党の関係、革新政党の責任と今後のわが国の政治変革についての現状に対する懸念を提起しているものと思われます。その点では注目すべき指摘だと思います。
     しかし、安倍政権の暴走政治が進行するなかで、戦後の日本の政治動向に新たな状況が生まれていることを吟味して考察することを土台に据えることが重要ではないでしょうか。
     今後の我が国の進路に関わる岐路とも言われている現状のなかで、彼我を取り巻くのそれぞれの情勢分析を吟味することが不可欠だと思います。
     急展開する新たな情勢のなかで、市民運動や政党、国民が直面する課題や運動の方向などは、あらゆる面で再検討が求められ、弱点や不十分な点を抱えながらも、新たな前進に向けた一歩を踏み出したと思います。
     共産党の主張や提言そのものへの指摘は、あってしかるべきだし、政治革新にとって共産党の役割抜きに明確な展望は見え出せないと思いますので、今回の参議員選、東京都議選の結果について、国民の納得が得られる共産党の総括・見解を注目したいと思っています。
     また、我々市民も積極的に発言し提言していくことは、「市民が政治を変える」上で不可欠だと考えます。
     その場合、具体的な実践や運動のなかでの成果や問題点をえぐり出すことも忘れてはならなことだと思います。
     今回の参議員選で、定数1の私の地元・福島では、「安倍政権・現職法務大臣ノー」を合言葉に「野党共闘と市民連合」が共同してたたかい野党共闘統一候補の勝利を勝ち取りました。
     市民連合が、県内野党に呼び掛けて3カ月間、粘り強く議論を重ね、当初全く見通しのない状況を克服して野党共闘統一候補(民進党公認・現職)の擁立を実現しました。
     いま福島では、「最初はギクシャクしていたが、後半は歯車がかみ合い、勝利への展望が開けてきた」と民進党幹部も含め、共闘の成果を確認しています。
     3年前の参議員選では、民進党候補が自民党候補にダブルスコアで敗北していることをみても、今回の結果は、「野党共闘と市民連合による共同の勝利」であることは明らかです。
     今回の選挙戦で、市民連合運動にかかわった一人として私は、共闘実現に向けた取り組みから勝利に至る過程で共産党が果たした役割は非常に大きかったことを実感しています。
     福島県市民連合は、さらに成果と教訓、弱点と今後の課題について掘り下げ、来たるべき衆議院選などへ向けての「市民運動と野党共闘」の前進に向けた議論を深めることにしています。
     選挙総括と今後の運動の進むべき方向について、各選挙区や地域で具体的に検証し、共通する課題と方向について確認し合い、全体の共通認識にしていくことが実践的ではないでしょうか。

  2. 平塚さんのおっしゃる市民革命の意味の不確かさについて、二、三申しあげたく存じます。まず、日本において市民革命はいつだったのか?ということです。明治維新と戦後ですか?戦後としたらいつですか?近代の自我という人間存在に至ったのはいつですか?明治維新ではないでしょう。戦前の民主闘争は治安維持法によってことごとく弾圧され、戦後の民主闘争まで待たねばならなかったのです。それが数度にわたる安保闘争だったのか、と推察されます。次に何故、日本共産党が市民革命を問題視するのか、ということです。前衛党の活動の挫折が、日本という社会の前近代性にあるということに気が付いたということです。共産革命の前に、まず市民革命を根付かせることなのだ、という点です。以上二点において、ご不満は少し解消されましたか?もちろん、地道な戦争法反対に論拠を置くことには大いに賛成です。市民の民主活動のためです。

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