【連帯・社会像】

星英雄:靖国参拝と安倍政権

 安倍政権はどんな政権なのか。「極右政権」「戦前回帰をめざす」という論調もあれば、そうではないという指摘もある。靖国神社参拝問題を通して考えてみたい。

 8月15日、雑踏の靖国神社の一角で恒例の右翼団体(日本会議、英霊にこたえる会)主催の「戦没者追悼集会」が開かれた。安倍首相の支持基盤・右派勢力を代表する形で、天皇の靖国神社参拝とその先導としての首相参拝の定着を要求する内容だった。しかし、安倍首相は今年も靖国神社参拝をしなかった。

 靖国神社に参拝しなかったのは、安倍首相だけではない。安倍首相に負けない「極右」政治家として知られる稲田朋美防衛大臣も参拝しなかった。初当選以来、4月28日と8月15日には必ず靖国参拝をしてきた稲田氏だ。沖縄を切り捨てた4・28は「主権回復」の日、8・15は「終戦記念日」として、靖国神社参拝を続けてきた稲田氏なのに、である。不参拝が批判を招かないよう、この日に海外出張を組み込んだのは安倍首相の意向と言われるが、「姑息だ」との批判は免れない。

 稲田氏は安倍首相の秘蔵っ子といわれる。要職の防衛大臣への任命も、極右政治家・稲田氏の将来に対する安倍首相の期待からという。

 稲田氏が極右政治家であることは広く知られている。新防衛相に就任してすぐのマスコミのインタビューでも、先の大戦が侵略戦争か否かを問われ、「個人の歴史認識をお答えする立場にない」とこたえた。つまり、侵略戦争であったことを認めない立場である。韓国のメディアは「歴史修正主義の傾向がある右翼強硬派の抜擢」、「慰安婦や戦犯裁判を否定する右翼」などと報じた。

 これまでの言動も、極右の評判に違わない。衆議院議員に当選後、首相の靖国参拝についてはこう語っていた。「この問題がわが国の安全保障、ひいては国としての存立にかかわる問題だ」。(産経新聞2006年6月3日付け)

 また、「日本のために核兵器を使う意思がアメリカにあるのかどうか疑問だ」として、「長期的には日本独自の核保有」を検討すべきだと主張していた(『正論』2011年3月号)

 安倍首相と稲田氏の関係も靖国神社参拝が取り持った。昨年8月15日、稲田氏は同じ靖国神社で、同じ右翼団体主催の追悼集会でこう語った。「私の政治家としての一歩も、10年前のここからはじまった」。安倍首相(当時は自民党幹事長代理)に見出されて、自民党の衆院選候補者に内定したのが2005年8月15日。靖国参拝で気脈を通じたのだった。

 靖国参拝こそ、極右政治家の核心問題なのだ。だが、コロッと豹変した。稲田氏も安倍首相も、自身の信条に反してまで、靖国参拝を回避したのだ。「安倍も稲田も極右だ」というばかりでは、説明がつかない。

 安倍首相がたった1度だけ、靖国神社を参拝したのは第2次安倍政権発足1年の2013年12月26日だった。第一次安倍政権で靖国参拝をしなかったのは「痛恨の極み」として、満を持しての靖国神社参拝だった。

 事前に「尊い御英霊に対して尊崇の念を表するのは当たり前、わが閣僚はどんな脅かしにも屈しない」と公言し、内外の批判があろうとも靖国参拝を実行する姿勢を示していた。中国・アジアへの侵略戦争について「侵略の定義は定まっていない」とうそぶき、東京裁判についても「連合国側の勝者の断罪」と語ってもきた。

 態度が豹変したのは、アメリカに一喝されたからである。アメリカが、「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している」と安倍首相の靖国参拝を、公然と、異例の厳しさで批判したことは今でも記憶に新しい。

 他にもある。安倍首相はいやいやではあってもすでに、中国などアジア諸国に対する侵略と植民地支配を認め、謝罪した村山談話や河野談話を認めている。全否定するはずだったが、認めざるを得ないのだ。「歴史修正・改竄主義」者も、アメリカの許容範囲でしか行動できない。

 安倍政権はアメリカには逆らえない。アメリカあっての日本。なにしろ、安倍政権の政治・外交路線の基本は「日米同盟強化」である。特定秘密保護法も集団的自衛権行使容認の安保法制(戦争法)もアメリカの要求に従ったものだ。

 実は、安倍首相の支持基盤である右派陣営内には「安倍政権は対米従属政権だ」の不満がくすぶっている。大きな声にならないのは、安倍政権は右派勢力の「虎の子」だからだ。安倍首相の足を引っ張っても、安倍政権に代わって彼らの声を代弁する政権の展望はない。

 辺野古新基地、高江のオスプレイパッド建設という沖縄への蛮行も、日米同盟強化の一環だ。安倍政権の暴走も特異さも、根源は日米軍事同盟なのである。

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