富裕税が注目されている。昨年アメリカの大富豪バフェットが自らを含め富裕者に対する増税を求めたことがきっかけでオバマ大統領も積極的な姿勢を示し、大統領選挙でも大きな争点として浮かび上がっている。ヨーロッパではフランス・スペインなど少なからぬ国で、富裕者の資産に課税する富裕税がすでに導入されている。たとえばフランスでは資産130万ユーロ(約1億3000万円)を超える資産保有者に対して、資産の大きさに応じて累進的な税率(最高1.8%)が適用される富裕税が実施されている。オランド新大統領は富裕者に対する課税強化に意欲的である。
今年7月、国連は途上国の貧困や開発のための資金源の一つとして、富裕税を含む財源案を提案した。それによれば、いま10億ドル(約800億円)以上の資産を保有する超富裕者は世界で1,226人おり、その資産の総額は4.6兆ドル(約370兆円)に達する。これに1%の税率で課税するだけで毎年460億ドル(約3兆円)の税収が得られる。 しかも富裕者の資産は毎年平均4%の率で増え続けているので、1%程度の負担を課しても増え続け、20年後には倍増する。また1%で課税しても一人当たり平均で37億ドル(約3,000億円)の資産が残り、毎日1,000ドル(約8万円)使ったとしても、使い切るのに1000年以上もかかるという興味深い試算を示している。
一方この10月、スイスの銀行クレディ・スイスが世界の富裕者の新しいデータを公表した。それによると純資産が100万ドル(約8,000万円)を超える富裕者が世界で2,900万人にのぼり、その資産の総額は87.5兆ドルに達するという。国連の提案にならって、これに1%の税率をかけると毎年8,750億ドル(約70兆円)という巨額の税収が得られる。
この調査によれば、日本でも富裕者の数は最近とみに増える傾向にあり、100万ドル(約8,000万円)以上の富裕者の数はアメリカの約1,100万人に次いで多く、世界の2番目で約360万人に達するという。富裕者一人当たり資産額を最低の8,000万円として計算しても、富裕者の資産総額は約288兆円となり、これに1%の税率で課税すれば毎年約3兆円の税収が得られることになる。これは最も少なめに計算した数字なので、実際にはもっと大きい税収が得られるはずである。おなじ1%でも富裕税の1%は消費税の1%よりも大きい税収が得られるのだ。
先に述べた国連報告も言うとおり、富裕税は経済に対してもっともかく乱効果が少なく、もっとも公正な税である。なぜ富裕者への1%には振り向きもしないで、庶民を泣かせる10%にこだわるのだろうか。
富裕層への課税、意外に注目されていませんね。おっしゃる通りと思います。大新聞は消費税増税への太鼓ばかりたたいていますし。米大統領選ではオバマが富裕税に積極的で、ロムニーはふれず、と報じられていますが、その面での結果にも注目したいところです。