【小森陽一「文つぶて」】

小森陽一:第6回九条の会全国交流討論集会の報告

Ⅰ 12人の「世話人会」を新たに設置

 2016年9月25日、東京千代田区の明治大学で「九条の会第6回全国討論集会」が開催されました。全国400余の地域・分野の会の代表約500人が参加しました。

 全体集会の冒頭で、「事務局からの問題提起」を私が行いました。その最後で「世話人会」を発足させることを発表しました。「世話人会」の役割は「呼びかけ人」をささえ、九条の会の運動の在り方などを論議し、方向性を示していくというものです。

 世話人会の構成は次のとおりです。

 愛敬 浩二(名古屋大学教授、憲法学)、浅倉むつ子(早稲田大学教授、労働法)、池内了(名古屋大学名誉教授、宇宙物理学)、池田香代子(ドイツ文学翻訳家)、伊藤千尋(ジャーナリスト、元朝日新聞記者)、伊藤真(弁護士、日弁連憲法問題委員会副委員長)、内橋克人(経済評論家)、清水雅彦(日本体育大学教授、憲法学)、高遠菜穂子(ボランティア活動家)、高良鉄美(琉球大学教授、憲法学)、田中優子(法政大学総長、江戸文化研究家)、山内敏弘(一橋大学名誉教授、憲法学)。

Ⅱ 澤地久枝さんの呼びかけ人あいさつ

 呼びかけ人の澤地久枝さんは、御自身が中心となっている「アベ政治を許さない」というポスターを掲げて、毎月3日の日の午後1時に国会正門前で立つ運動について、「これは一番力の弱い人たち、しかし声を出すことはできないけれども、気持ちとしては、絶対に憲法を守って、この国が再び戦争をするような国にはするまいと思っている人の強い意志がある」と話されました。さらに、「憲法を守って、そして1人の戦死者も出さないし、他国の人たちを殺さない、そういう国を守っていきたいと思います」と決意の強さを示されました。

 「九条の会」がアピール発表したのが2004年6月10日。そのアピールの呼びかけ人は、井上ひさし、梅原猛、大江健三郎、小田実、奥平康弘、加藤周一、澤地久枝、鶴見俊輔、三木睦子の9氏でした。以来、呼びかけ人の呼びかけに応じて全国で結成された、地域、分野、職場、学園のそれぞれの「九条の会」が運動の主体であるという立場から、呼びかけ人の補充等はしないで来ました。


 「世話人会」は、こうした「九条の会」の運動の特質をふまえ、第3次安倍晋三政権の改憲暴走を阻止し、憲法を守りぬき、あらためてしっかり生かしていくための、新たな体制です。

9月25日、9条の会第6回全国交流討論集会で問題提起する小森陽一氏

9月25日、9条の会第6回全国交流討論集会で問題提起する小森陽一氏<写真提供・郡山市の菅原信正さん>

Ⅲ 戦争法の発動を断じて許さないために

 昨2015年9月19日に強行採決され、今年3月29日に施行された戦争法を、第3次安倍政権は、核武装論者である稲田朋美防衛大臣を中心に、いよいよ発動させようとしています。数時間だけ南スーダンを視察した稲田防衛大臣は、何の根拠もなく安全だと強弁しつづけています。銃撃戦などが多発している南スーダンに、PKOで新たに青森県から派遣される自衛隊が、「駆け付け警護」と称する任務において、「殺し・殺される」状態に追い込まれる危険性が高まっています。

 戦争法が施行されてもなお発動させることを阻止して来た力は、この憲法違反の法律を廃止する広範な署名運動が全国で取り組まれ、1500万人を大きく突破し、毎月19日は、大きな集会が全国で行われ、強行採決1年目の9月19日に雨の中3万人が抗議の声を国会前で上げたことに明確にあらわれている、主権者性の自覚にあります。1人ひとりの主権者が、憲法によって国家権力を縛るという運動が、ここまで戦争法を発動させなかったのです。

 こうした新たな力関係を形成したのが「2015年安保闘争」です。市民の草の根運動が、これまでの日本の政治史の中では存在しなかった4野党の共闘を実現し、参院選では32の1人区すべてで統一候補を立て、そのうちの11の選挙区で野党が勝利したのです。しかも沖縄と福島では現職の閣僚に、野党統一候補が勝ったのです。

 この野党共闘は、2015年にはまだ実現していませんでした。「2015年安保闘争」を大きく前進させた「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」、「SEALDs」、「ママの会」、「学者の会」、「立憲デモクラシーの会」などが、12月20日に「市民連合」を結成し、強い働きかけを野党に対して行った結果、年が明けて2月19日に、参院選で共闘する合意が5野党(当時)で形成されることになったのです。この力をより一層強めていくことが、戦争法の発動を阻止するためには不可欠です。

Ⅳ 市民運動の力で実現した野党共闘

 「2015年安保闘争」を2016年選挙での野党共闘につなげたのは、市民の力でした。そしてその市民の力は、統一した運動を進める共同の努力の中で成長して来たのです。戦争法を廃止する2千万人署名に取り組まれた方は気がついたと思いますが、呼びかけ団体としての「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の名称の下には、1つの名称であるにもかかわらず、3つの異なる電話番号が印刷されていました。さらにその下には、その電話番号の脇に書いてある団体名の正式名称が記されています。

 すなわち「戦争をさせない1000人委員会」、「解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会」、「戦争する国づくりストップ!憲法を守り・いかす共同センター」という3つの団体です。政治的な主張を異にする3つの団体が1つになったのが2014年の末でした。そこにいたるまでは、厳しい議論が積み重ねられましたが、支持政党や政治的主張は違っても、集団的自衛権の行使を容認した安倍政権の戦争法に統一した反対運動を進めていくという合意が3団体の間で形成されたのです。2015年5月3日の憲法記念日の集会を統一して行うところから共闘が進み、5月14日の戦争法閣議決定以降、国会前で毎週木曜日、この実行委員会を中心に戦争法反対の運動が繰り広げられていきました。そして、8月30日には、国会前12万、全国1300カ所以上での抗議集会を実現させるにいたったのです。

 この空前の共同の行動に背中をおされるようにして、「SEALDs」が6月5日から国会前行動を始め、6月15日には「学者の会」が、7月には「ママの会」が結成され、市民運動の大きな広がりが形成されていきました。

 この党派はもとより、政治的な主張の違いをこえた市民運動の共同が、1人ひとりが個人として、主権者として運動に参加していくという流れを広げていったのです。だからこそ9月19日に戦争法が強行採決されたとき、「野党は共闘!野党は共闘!」という声が国会周辺に響き渡ったのでした。この声を受けて、その後の野党共闘が実現していく道筋が開けていったのです。

 一方、現役の沖縄担当大臣を破って伊波洋一氏が当選し、すべての国会議員が辺野古新基地建設反対となった翌日から、高江では本州の機動隊員を動員して、暴力的に工事の再開が強行されました。沖縄県民の民意尊重と基地の押しつけ撤回を求める署名が、「総がかり行動実行委員会」等の主催で始まっています。

 戦争法を発動させない運動と、沖縄への基地建設を止めさせる運動を両輪としながら、憲法とりわけ9条改憲を許さない大きな運動の広がりを形成することが求められています。

Ⅴ 衆院選を射程に入れた野党共闘を実現する草の根運動を

 「2015年安保闘争」と、2016年参院選を通して、1人ひとりの有権者が9条を持つ日本国憲法を自分のものとして選び直し、日々行使する運動に立ち上がっています。12年前の「九条の会」のアピールの中身が、今、しっかりと根づき実現されつつあるのです。

 安倍晋三政権は繰り返し自らの任期中に明文改憲することを国会で表明しています。これに対して、どのような運動を進めていくべきかについて、全国交流討論集会の分散会では活発な討論が行われました。

 なにより、参院選で野党共闘が実現した選挙区での活動の報告は、各分散会会場で多くの参加者を励まし、各地での運動の大切な教訓となりました。これまで一緒に活動をしたことのなかった人たちが、野党共闘の中で行動を共にすることによって、新たな信頼関係が築かれて行き、人が変わり、政党も変わり、運動も一気に強まっていく過程が、各地の独自性とともに報告されました。

 11の参院選1人区での勝利の教訓を、全国の衆議院小選挙区で汲みつくして野党統一選挙を実現することが出来れば、明文改憲を阻止する大きな力関係の転換を実現することが出来ます。第6回九条の会全国交流討論集会のビデオと報告集を現在作成中です。多くのみなさんが、全国の貴重な経験に学び、それぞれの地域、職場、学園、そして各分野で、明文改憲を許さない運動の、大きな共闘を進めていくことを訴えます。

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