9月下旬、私はロシア・モスクワとイタリア・トリノを訪問するちょっと変わったツアーに参加した。10時間以上も飛行機で縛り付けられることに気が重かったのだが、いざ行ってみると様々な発見もあり、興味深い旅になった。
まずロシアの印象だが、わかりやすく言うと、旧ソ連は無くなったが、家はそのまま残っている。赤い外壁は洗い流されて白っぽくなっているけれど、大国主義や官僚主義などの家の骨格はしっかりと引き継がれている。秘密警察旧KGBのビルも名前を変えて煌々と光り輝いていた。旧ソ連が表札と外壁をすっかりリフォームしてできているのが、現在のプーチン政権と言えるのかもしれない。
さらにそのロシアで、ロシア共産党がしぶとく生き延びていた。貧困と格差の広がる経済状態のなかで、年金生活者や高齢者を中心に10~15%の支持を得ているそうだ。多少経済が厳しくても、以前のような時代には戻りたくないという人が大多数のようだが、「昔は良かった」と思う人も一定程度存在しているということだ。
その一方イタリアでは、かつて西欧最大といわれたイタリア共産党は、力を伸ばして政権に近づくにつれて、党名は左翼民主党になり、さらに前進して左翼も取れて民主党になり、今ではまったく姿が見えなくなっていた。
困難な人たちがいなくなったのかと言えば、そんなことはない。その人たちの声の受け皿はどこかと聞くと、反EU,反政党、腐敗追及、環境主義などを訴える「五ツ星運動」の女性市長だという。私が訪れたトリノの市長も、首都ローマの市長も「五ツ星運動」の女性市長だ。「そういえば東京も知事は女性ですね、」と日本のニュースもちゃんと伝わっていた。
ヨーロッパで広がる移民排斥の動きやアメリカ大統領選でのトランプ候補も、困難な人々の声、やり場のない不安・不満の受け皿として機能している点で共通するものがある。東京都知事選で、自民党との対決を演出した小池百合子氏も同様ではないか。
日本では、暴走する安倍政権に対抗して、市民と野党の共闘が足を踏み出しつつある。化けの皮の剥がれかけた維新の会でもない、小池百合子政治塾でもない、人々の声を本当に受け止めることのできる、目に見える受け皿づくりが急がれている。(2016・11・3)