【連帯・社会像】

星英雄:北朝鮮の核問題について考える

 アメリカのトランプ政権が北朝鮮を攻撃し、日本にも波及するのではないかという不安と緊張感が高まっている。トランプ政権が国際法に違反してシリアを先制攻撃し、北朝鮮に対しても先制攻撃は排除しないとしているからだ。それを日本の安倍政権が支持し、いっそう不安と緊張をあおっている。それでいいのか。根底にある北朝鮮の核問題について考えてみたい。

 北朝鮮はやっかいな国だ。被爆国の国民として核実験を繰り返す北朝鮮を許せないと思うのは当然だ。独裁国家だから可能な、許されない振る舞いも多々ある。しかし、だからといって、北朝鮮を一方的に武力攻撃してよいことにはならない。世界1の軍事国家アメリカが、相手を敵対する国家とみなせば武力に訴えてもよい世界にしたいのか。そうではあるまい。

 アメリカは北朝鮮が核開発をやめないことを理由にしているが、ではなぜ、北朝鮮は核開発を進めるのだろうか。

 次の発言は、英国で北朝鮮の公使(大使に次ぐ地位)を務め、昨年韓国に亡命した人物の最近の発言だ。

  「(金正恩委員長は)独裁者たちの末路がどうなったか見てきた。イラクのフセイン、リビアのカダフィだ。核兵器を保有していればアメリカや韓国は絶対に攻撃できないと金委員長は信じている。だから絶対に核を放棄しない」

 発言の主は、元駐英公使のテ・ヨンホ氏。NHKが今年3月8日に放映した。発言内容は簡単明瞭だ。北朝鮮の金正恩労働党委員長は、核を持っていればアメリカの攻撃を防ぐことができると信じているから核を手放さない、というのだ。いまは北朝鮮の改革を訴える、かつての北朝鮮外交エリートだけに、説得力がある。

 同じ見方は、日本国内にもある。一昨年7月、防衛省防衛研究所が開催した北朝鮮問題のシンポジウムで倉田秀也防衛大学校教授の分析はこうだった。

 「北朝鮮にとって核先制使用は自らの体制崩壊を導く『不合理』な選択」、「北朝鮮が『核先制打撃』に言及するのは・・・米国を抑止しようとするからである」

 アメリカの軍事行動に核の先制攻撃で対応すると北朝鮮はいうが、その狙いはアメリカの攻撃を抑えるためだ、という分析結果だ。

 北朝鮮がつねにアメリカの核を含む軍事攻撃の脅しにさらされてきたことは、実はよく知られている。1950年に始まった朝鮮戦争は「休戦協定」で停戦状態にはあるが、戦争終結を示す「平和条約」は結ばれていない。北朝鮮は「休戦協定」を「平和協定」にすることを求めてきたが、アメリカは応じていない。

 アメリカのブッシュ大統領は2002年、イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」と規定した。2003年3月、アメリカは「大量破壊兵器の保有」を口実にイラクを先制攻撃、イラクに侵攻した。世界で反対世論が沸き起こった、あのイラク戦争だ。イラクと同じく「悪の枢軸」とされた北朝鮮が「震えあがった」などといわれた。「イラクは力がないからアメリカに攻撃された」というのが北朝鮮の理解で、核開発に走った。核がアメリカの攻撃を抑えることができるという考えだ。北朝鮮が最初の核実験をおこなったのは2006年10月のことである。

 北朝鮮が米国との対話と「平和協定」を求めてきたことも確かなことだ。

 2回にわたる小泉純一郎首相と金正日国防委員長の日朝首脳会談の極秘記録もそのことを示している。NHKが2009年11月8日に放映した「秘録 日朝交渉~知られざる“核”の攻防~」だ。それによれば、2004年5月の2回目の日朝首脳会談で、金国防委員長は小泉首相に熱っぽく語った。

 「6者協議も重要だが我々は6者協議を通じてアメリカとの二重唱を歌いたいと考えている。我々はのどがかれるまでアメリカと歌を歌う考えである」

 「二重唱」つまり、アメリカとの対話を熱烈に欲していることを明かしたのだ。

 2015年、北朝鮮はアメリカに朝鮮戦争の平和協定締結を求めたが、当時のオバマ政権が拒否したことも明るみに出た。昨年2月、米マスコミが報じ、オバマ政権も認めた事実である。

 北朝鮮が先に攻撃を仕掛ければアメリカに武力攻撃の口実を与え、国土、国民が壊滅状態にされることは目に見えている。だから、北朝鮮が先に軍事行動に出ないことは、自民党の安保族議員にとっても常識だ。安倍首相もかつて小泉内閣の官房副長官のときには、公言していたほどだ。なのに、北朝鮮の脅威をあおって、安倍首相らは日米同盟の強化、軍事力の強化に結びつけてきたのが実態だ。脅したり制裁を強化しても北朝鮮の核開発は止められないことも、この間の経過が示している。

 日本の新聞もテレビも、アメリカを中心に安全保障を考える癖があるから、それに追随していては北朝鮮の核問題を理解できない。

 北朝鮮の核開発を止めるには北朝鮮の安全を保証することだという理解は米国内にもある。たとえば、アメリカの外交評議会の外交専門誌『Foreign Affairs』。その日本語版『フォーリン・アフェアーズ・リポート』2017年3月号でジョン・デルーリ延世大学准教授は「ワシントンが朝鮮半島における平和の実現を望むのなら、北朝鮮経済を締め上げたり、金正恩体制を切り崩す方法を探したりするのを止め、平壌がより安心できる環境が何であるかを考える必要がある」として、次のように提案している。「アメリカが安全を保証することを条件に、北朝鮮の核開発プログラムの凍結を交渉すること」──。平和的交渉しか道はない。

星英雄:北朝鮮の核問題について考える” への2件のコメント

  1. 「北朝鮮の核問題について考える」を拝読しました。核問題についての見解に異論はありませんが、北朝鮮の金正恩体制をそのままにしておいていいということにはならないと考えています。労働党委員長に就任して以来の数次にわたる粛清、暗殺、そして何よりも日本人拉致による主権の侵害について全く解決しようとする姿勢がないことなど。いずれにしても世襲による独裁や恐怖政治は共産主義・社会主義社会においても許されるものではありません。飢えに苦しんでいる一般国民を放置して特権階級だけが豊かな(?)暮らしを享受しているのも許しがたいことです。そうしたことを総合的に考えて北朝鮮問題を考えることが求められると思料します。

  2.  記事の中の「・・・北朝鮮の脅威をあおって、安倍首相らは日米同盟の強化、軍事力の強化に結びつけてきたのが実態だ。脅したり制裁を強化しても北朝鮮の核開発は止められないことも・・」に私も共感いたします。
     それにしても安倍政治のプロパガンダに手を貸すようなジャーナリズムによる報道の日々、いたずらに不安をあおって軍事国家へ突き進むような状況や、そして共謀罪を無理やり通そうする昨今、別な意味の不安を感じます。

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