【日米同盟】

星英雄:辺野古新基地建設と日米同盟 安倍首相はなぜ強行するのか 対米従属の深層㊦

 アメリカの軍事力を頼りにしないと日本の進路を描けない日米安保ムラ。今回㊦は、日米安保ムラの「公然の秘密」を表に出した森本元防衛大臣や、日米間で現行のV字型辺野古新基地建設に合意した時の額賀元防衛庁長官の発言などを通して、辺野古新基地建設と日米同盟についてさらに考えてみたい。

 元防衛大臣の森本敏氏は沖縄では、普天間基地の移設先を辺野古に決めたのは軍事的ではなく、政治的理由によるものだと発言したことで知られる。しかし、それだけではない。森本氏は「日米安保条約は紙切れだ」と公言して防衛大臣に就任した初めての人物である。前代未聞の出来事だが、マスコミからその意味や責任を問われることはなく、防衛省はこの森本発言の部分を削除してシンポジウムの動画を公開した。

★日米安保条約はただの紙切れ

 森本氏が民主党野田政権の防衛大臣に就任する3カ月前の2012年3月、東京・秋葉原。防衛省主催の日米同盟シンポジウムで森本氏はこう言い切った。

 「条約というのは何が書いてあろうとも、そして(日米安全保障)条約に基づいて何百回、(アメリカが)貴国(日本)を守ると約束しても、それは一片の紙に過ぎない」

  「本当にアメリカが日本を守るかどうかは、アメリカにとって日本を守ることがアメリカ国家とアメリカ国民にとって真に利益だと感じるときしかない」

 「アメリカの日本防衛のコミットメントは磐石だ」とシンポジウムで発言したパトリック・クローニン新アメリカ安全保障センター(CNAS)上級顧問に、反論したのが森本氏だった。「アメリカが日本を守るのは、日本がアメリカの利益になるときだけだ」というのだ。前回㊤の、高村自民党副総裁の発言と同じ趣旨である。

 森本氏は日米同盟関係の要路の人物だ。自民党の石破茂衆院議員らが「森本先生は第一人者」と評価し、日米安保ムラでも一目置かれる存在だ。民主党野田政権で防衛大臣を、いま、自民党安倍政権で新設された防衛大臣政策参与を務めている。森本氏が、日米同盟を維持するために「犠牲とコストを払って、行動するべきだ」と、自民、民主(現在民進)国会議員らに呼びかけ、国会議員らが静かに聞き入ったこともある。「日米同盟をもっともよく知る人物」が、「アメリカは日本を守らない」という、日米安保ムラではいわば「公然の秘密」ともいうべき本音を語ったのだ。

小野寺防衛大臣とともにテレビ出演する森本防衛大臣政策参与(右、BSフジから)

 辺野古新基地建設は「米軍を引き留めておく」典型的な例である。沖縄の民意は、名護市長選、沖縄県知事選などことあるごとに、「辺野古新基地建設ノー」をはっきりと示してきた。しかし安倍政権は沖縄の民意より、日本国憲法に定める地方自治より、米政権が大事だ。

★日本政府が米軍を引き留めた

 橋本首相とアメリカのモンデール駐日大使が普天間基地返還の発表をしたのは1996年4月のことだった。ただし、この時期も日本が米軍の縮小・撤退を恐れていた事情は変わらない。橋本政権の梶山静六官房長官は記者に「米政府に沖縄の海兵隊の縮小を求める考えはありませんか」と質問され、こう答えた。「いざやられたら米軍が守ってくれることになっている。それを考えると、今すぐどうこうと、具体論として掲げるわけにはいかない」(朝日新聞1996年11月19日)

 現行の辺野古新基地建設(V字型)は米軍再編・沖縄に駐留する海兵隊のグアム移転の流れの中で、決まった。日米両政府が合意した「再編実施のための日米のロードマップ」は、沖縄の海兵隊8000人と家族9000人がグアムに移転すること、同時に、V字形の2本の滑走路を持つ新基地をシュワブ沿岸部に建設することを盛り込んだ。

 「ロードマップ」で米国と合意した当事者の額賀福四郎・防衛庁長官は後にシンポジウムで語った。「沖縄に犠牲にしてもらってわれわれが安全を保っているのは、よくよく承知している」といいつつ、「(米軍が)いったん引き揚げたら、たとえば尖閣列島でなにかいざこざがあったときに、本当に米軍が出てくるか」。

 額賀発言は、米軍基地を減らし沖縄の負担を軽くするためではなく、日本政府が米軍を引き留めるために新基地を建設することを明かしたのである。森本元防衛大臣が言った、辺野古新基地建設の「政治的な理由」もこのことだろう。日米同盟は、人間の生命・人権を踏みにじって恥じない。

 敗戦後72年。世界を見渡しても米国外に駐留する米軍兵士の数は、日本が1番多い。日本は多額の「思いやり予算」を負担してもいる。21世紀の今日、新基地をつくってまでアメリカに提供する国が他にあるのか。アメリカが国益とみなせる日本とはどんな日本なのか。「犠牲とコストの支払い」──対米従属は際限がない。

 「密約」があるから、地位協定があるからアメリカに従属しているのではない。数々の「密約」が維持されてきたのも、屈辱的な日米地位協定がいっこうに改善されないのも、アメリカに見捨てられることを恐れる歴代政権が犠牲とコストを支払ってきたからに他ならない。──これがいまも、日本の安全保障政策・外交政策の根本を貫いている。

★紙切れ1枚に国家の命運をゆだねない

 日米安保ムラの不安は、日米安保条約そのものにも起因している。「アメリカの日本防衛」は日米安保第5条で「自国の憲法上の規定及び手続に従」うと規定されている。高村自民党副総裁の言う「世論の国」の問題、つまり「戦争権限」をめぐる連邦議会の問題が生じる。日本のためにアメリカ人の命、とくに若者の命を犠牲にすることはあり得ない。

 日本の歴代政権は米軍基地のない日本を構想できない。とりわけ1970年代以降、日本政府は米軍が日本・アジアから引き揚げていくことを不安視した。近年は、米経済力の低下とともに、「世界の警察官」返上の動きを見せるアメリカに脅えた。安保法制について、官邸や自民党サイドは「米軍を引き留めるため」と陰で説明した。そして「アメリカ・ファースト」のトランプ政権の登場だ。

 そもそも軍事同盟は、古今東西、自国の国益を犠牲にしてまで維持することはない。日米安保ムラが、アメリカに見捨てられることを恐れる最大の理由だ。だから日米安保ムラでは、ヘンリー・キッシンジャー元米大統領補佐官・国務長官の警句が共有されている。「非常事態に直面して、紙切れ1枚に国家の運命をゆだねる政府は存在しない」。

 これが、いまも変わらぬ国際政治と日米同盟の冷厳なリアリズムなのだ。

 日米安保条約・日米同盟とはなんだろうか。

 時の岸政権が日米安保条約を強行して以来、日本政府は国民に対し「米国は日本を防衛する義務を負い、日本はそのために米国に施設・区域を提供する義務を負う」。これが「日米安保体制の最も重要な部分」(外務省ホームページ「日米安保体制Q&A」)だと、説明してきた。安倍首相もそうだ。しかしそれは、虚構だったのだ。

 国益とは畢竟、国民の生命・人権・財産を守ることである。

 核戦争にも発展しかねない米朝緊張の高まりの中で、米朝が攻撃しあえば朝鮮半島と米軍基地のある日本が戦場になることは明らかだ。この情勢下で、安倍政権は何をしただろうか。

★日米同盟は国民の生命・人権を守るのか

 核攻撃を含む「すべての選択肢がテーブルの上にある」、「北朝鮮は世界が見たこともない炎と怒りに見舞われることになる」というトランプ大統領を安倍首相は支持しつづけてきた。トランプ大統領に対し、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は「朝鮮半島で戦争は容認できない」と直言したが、安倍首相が「平和的な解決」を求めたとは、どのメディアも伝えていない。

 安倍首相は日本国民の生命・安全よりもトランプ米大統領に忠誠を誓うことを優先した。これが日米同盟だ。

 沖縄では昨年20歳の女性が米軍属に暴行され、殺された。オスプレイが我が物顔で飛び回っている。占領支配の延長の米軍基地があることで、命と人権が脅かされる日々の生活がある。

 沖縄県民も「本土」のわれわれも、平和に生きる権利、人権・個人の尊厳をうたう日本国憲法の下で暮らしているはずだ。自分の目の前に、米軍基地がなければそれでよいのか。国民の生命・人権・財産を犠牲にしなければ成り立たない安全保障・日米同盟とは何なのか。だれもが、自分の問題として考えなくてはいけないと思う。

星英雄:辺野古新基地建設と日米同盟 安倍首相はなぜ強行するのか 対米従属の深層㊦” への1件のコメント

  1. 「日米安保条約」に込められている日米安保体制の政治的本質は何か。
     60年新安保条約以来、日本政府は国民に対し「米国は日本を防衛する義務を負い、日本はそのために米国に対して施設・区域を提供する義務を負う」とする「日本防衛義務」を説明してきた。戦争法の国会審議における安倍総理の答弁も、この基本線を踏襲している。
     星氏の論考は「米国が日本を防衛する義務を負う」という政府の説明に一石を投じている。氏は自民党の高村正彦・安倍晋三氏や森本敏・額賀福志郎元防衛大臣らの発言等を丹念に追いつつ「米国が自国に利益をもたらす時だけ、米国が日本を守る」という「日米安保ムラ」の「公然の秘密」を、白日の下に曝している。長年にわたり日米安保体制を追及してきた星氏ならではの鋭い論考であり、功績だと思う。とりわけ、星氏が額賀福志郎元防衛庁長官の発言を紹介した箇所は、活字ベースでは初めてではないだろうか。
     星氏は述べる、「屈辱的な地位協定がいっこうに改善されないのも、米国に見捨てられることを恐れる(日本の)歴代政権が犠牲と支払ってきたからに他ならない」。仮に、この自民党歴代政権の安保路線の対極に星氏の論点を据えるならば「米国の日本防衛義務がないなら、日本の基地提供義務もないこと」も重要な論点の一つとして浮上せざるを得ないだろう。星氏の論考は、日本の革新陣営の「日米従属論」に対して自己分析を求めていると感じた。

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