【連帯・社会像】

星英雄:日本を戦場にするなと言えない安倍首相 北朝鮮核問題と日米同盟

 今年のノーベル平和賞はICAN〈アイキャン=核兵器廃絶国際キャンペーン〉が授賞した。国連での核兵器禁止条約採択に貢献したNGOだ。いまや、核兵器廃絶は世界の潮流となりつつある。ところが、安倍首相・自公政権は逆だ。核兵器にしがみついている。北朝鮮の核危機をあおることが総選挙を有利に運び、憲法違反の安保法制(戦争法)を定着化させ、憲法9条改悪につながるという狙いがある。そうさせないために、北朝鮮核問題と日米同盟について考えてみたい。

 安倍首相は、国民の生命・人権・財産を守るつもりはないようだ。衆院解散を表明した9月25日夜、安倍首相はテレビ局を梯子した。報道ステーションで、「万一トランプ大統領が北朝鮮を攻撃するとなった場合、その攻撃に乗るのか、止めるのか」と問われた。

 安倍首相は、武力攻撃を含むすべての選択肢があるというトランプ大統領を「支持する」とは言ったが、米国の攻撃を止めるとはついに言わなかった。これが日本の首相なのか。

 ノーベル委員会は「核兵器が使われる危険がかつてなく高まっている」と懸念を表明しているが、この地球上でいま、最も核戦争の危険が高まっているのは、米朝間の抗争渦中にあるこの地域だ。米朝が武力衝突すれば、アメリカは遠いが、日本と韓国は間違いなく戦場になる。

 米朝核戦争を止めるためにいま世界は、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領はもとより、ドイツのメルケル首相も、中国もロシアも、その他も、「平和的外交的解決」を求めている。それが世界の大勢だ。

 「北朝鮮は世界が目にしたことのないような炎と怒りに直面するだろう」、「北朝鮮を完全に破壊する」などと北朝鮮を脅すトランプ大統領こそ、世界の不安要因だ。安倍首相はそのトランプ大統領に最も気に入られた指導者で、公表される以外にも頻繁に連絡を取り合っているといわれる。しかし安倍首相が日本国民の安全をトランプ大統領に訴えたとはだれも聞いたことがない。これが日本の首相、自民党総裁の姿なのだ。

 北朝鮮がなぜ核兵器を開発し、保有に走るのか。主な動機がアメリカの攻撃を抑止するためだということはよく知られている。<星英雄:北朝鮮の核問題について考える 、2017年4月22日投稿参照>
 たとえば、防衛省東北防衛局の局長はFMラジオでこう語っている。「米国の核の脅威に対抗する独自の核抑止力が必要と考えているからとも言えます」(2016年2月)。

 北朝鮮問題の専門家、平岩俊司・南山大学教授はこう指摘している。「イラクが大量破壊兵器についての査察を受け入れたにもかかわらず、米国によって攻撃を受けたことも、北朝鮮にとっては大きな衝撃であったと言ってよい。・・・米国の『強い意思』の前には、国連でさえその行動を制御しえないとの認識を強くしたに違いない」。<『北朝鮮─変貌を続ける独裁国家』(中公新書)>

 北朝鮮の核開発には賛成しないが、あのイラク戦争や近くはシリア攻撃をみても、核大国アメリカの軍事攻撃の脅威に目を閉ざすことは、問題の正確な理解を妨げる。

 北朝鮮は人口約2500万人、国土は日本の3分の1のいわば小さな国だ。他方アメリカは、核兵器を7000発保有するといわれる核大国だ。仮に、北朝鮮が先に攻撃すれば、それを口実にアメリカによって国土が壊滅させられることを知っているから、先に手を出さない。このことは世界の軍事常識に属する。

 米朝間では、朝鮮戦争が終わっていない。休戦協定を結んではいるが、平和条約はいまだ締結されていない。朝鮮戦争後も、アメリカの核攻撃の脅威にさらされてきた北朝鮮が、平和協定締結を望んでいることもまた、よく知られている。

 米朝が平和条約を結び、関係正常化をすることがいけないことなのか。

 実は、北朝鮮とアメリカが和解しては困るというのが、日米同盟に依存する安倍首相や日米安保ムラの考えだ。米朝が平和条約を結ぶことは、在韓米軍撤退にとどまらない。日米安保条約に基づく在日米軍基地・米軍の存在が大きな問題になるからだ、といわれている。北朝鮮核問題は国民の関心事となっていて、雑誌等でもこれらのことが話題にされている。

 この問題には前段がある。かつて、西原正・防衛大学校長(当時)が米紙ワシントンポスト2003年8月14日付に論考を寄稿し、波紋を投じた。以下のような内容だった。
─金正日総書記は、米国に攻撃を思いとどまらせるために核兵器が必要とみている
─北朝鮮は米国に対し、不可侵条約の締結を交渉の主要条件としている
─米軍が韓国から撤退すれば、沖縄県民は沖縄駐留米軍を削減もしくは閉鎖を主張するだろう
─米朝間で不可侵条約が締結されれば、それは日米安全保障条約と矛盾することになる

 朝日新聞が<米朝不可侵「安保と矛盾」>という見出しで報じたこともこの問題の大きさを物語る。日米安保・日米同盟こそ、米朝間の関係正常化を妨げる1大要因なのである。

 世界の不安要因であるトランプ米大統領が万一、北朝鮮を攻撃すれば日本は悲惨な目にあうことはさけられない。すでに、日米安保ムラの1員である川上高司・拓殖大学教授はこう語っている。

「もしアメリカが先制攻撃すれば、日本は日米安保条約に基づき、淡々と米国の後方支援に徹するしかない」(『新潮45』10月号)。憲法違反の安保法制(戦争法)で、集団的自衛権を行使して米軍の後方支援をするのが日本の役割だ、と主張している。日米安保条約・日米同盟があるために、日本はアメリカの戦争に巻き込まれることになるのだ。

 安倍政権は、北朝鮮と中国の脅威を掻き立てることで、日米同盟と日本の軍事力強化をすすめてきた。しかしトランプ大統領は、中国に働きかけて北朝鮮核問題を解決しようと試みてもいる。米朝が和解すれば、日米同盟の存在理由はなくなる。

 さらに、北朝鮮核問題解決の当事者は、米朝二か国と、韓国、中国の計4か国とされてきた歴史がある。北朝鮮核問題を解決して、北東アジアに平和な国際秩序を形成する機会に、日本・安倍政権は相手にされていないのが実情だ。日米軍事同盟・アメリカ一辺倒の日本はカヤの外なのだ。安倍首相がトランプ大統領にすがる理由がここにある。安倍首相は米朝和解を望んでいない。

 「国難突破」と叫ぶ安倍首相にだまされてはいけない。国民の生命を危険にさらす「国難」は、安倍首相・日米同盟によってこそもたらされようとしているのだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)