日本では増税といえば消費税の増税のことだけしか頭にない人が多い。それほど財政が大変なら消費税増税もやむを得ないではないかと考える人も少なからずいる。大企業にも負担増をなどといえば、そんなことをすれば企業は海外に逃げ、日本経済は空洞化してしまうという反応が返り、そもそも議論の対象にすらならない場合が多い。 しかし財政再建をめざし、税制改革を行おうとする場合、あらかじめ特定の税目を取り上げて増税の可否を議論するのではなく、すべての税目を聖域なく見直すことが不可欠である。とりわけ最も負担能力のある大企業を聖域にするのは論外である。
その点で最近のイギリスの新聞論調や議会の取り組みが面白い。イギリス下院決算委員会が最近まとめた年次報告書は、もっぱら大企業の課税回避に焦点を当てている。大企業は本来納めるべき税を逃れており、国税庁は大企業に対する課税を強めよという勧告である。
報告書は直近の年度の税収の総額が増えているにもかかわらず、法人税の税収が減っていること、法律上予想される税収に対して実際の税収が過小であることを指摘し、その原因は大企業が会社の構造を変更したり、国内で挙げた利益を「移転価格」や知的財産権にたいするロイヤリティー支払などの方法で、無税かまたは低税率のタックスヘイブンに逃避させることによって、本来支払うべき税を逃れていることを指摘している。
報告書はこのような課税回避の手法を利用できるのは国際的に活動する大企業だけであり、まともに納税している中小企業や多くの個人との間に大きな税負担の不公平が生じている、とも述べている。
決算委員会のマーガレット・ホッジ委員長(労働党)は12月3日の年次報告発表後、「巨大企業は英国で巨額の利益を生み出しているが、ほとんどあるいは全く税を納めておらず、まともに税金を納めている事業者や個人の怒りを買っている」と述べ、国税庁に対し、巨大企業に対する課税に手加減しないで、もっと強力に対処せよと求めたのである。
フィナンシャル・タイムズやガーディアンなど主要紙も、大企業や大富豪がタックスヘイブンなどを悪用して課税逃れをしている事実を相次いで報道し、それに対する批判キャンペーンを展開している。
わが国でも法定の法人税率は30%であるが、大企業はさまざまな特別措置をフルに活用することによって、実際の負担率は大企業ほど低くなっていることは周知の事実である。また個人についても、所得水準が1億円を超えると、それ以上は高所得者ほど税負担率が下がっている事実もよく知られている。その原因を突き止め対策を講じることこそが、わが国で財政再建を図るにあたってまず取り組まなければならない優先課題であろう。
イギリス議会では先に述べた報告書をまとめるにあたって、グーグル、スターバックス、アマゾンなど大企業を聴聞し、事実関係を洗い出すなどさまざまな努力をしている。
わが国においてもできないはずがない。選挙後の新しい国会の重要な任務である。このような大課題を遂行する意思と能力があるか、候補者や政党を選ぶ際の大事な目の付け所である。