沖縄県名護市は来年2月投開票の市長選が事実上始まっている。「辺野古の海にも陸にも新たな基地は造らせない」と新基地建設反対を貫いている稲嶺進・現市長が3選に挑戦する。安倍政権はアメリカに提供するために、巨額の血税をつぎ込んで新基地建設を強行している。自国民の命と人権を脅かす米軍基地を造らせてよいのか。国民1人1人も問われている。
辺野古に新基地が造られると、辺野古、高江、伊江島を結ぶトライアングルは、オスプレイが日夜ひっきりなしに飛び交い、住民たちは墜落の恐怖と耐えがたい騒音のなかで暮らさざるを得なくなる。「この地域に人間は住めなくなる」との声は、市民が共有する思いだ。
オスプレイの恐怖は新基地が造られる前から、市民を襲っている。昨年12月、名護市安部にオスプレイが墜落し、無残に大破した。安倍政権が辺野古新基地建設で期待を寄せる久辺3区(名護市の辺野古、豊原、久志の3地区)がオスプレイ配備反対の決議をあげたことは、オスプレイが住民にとってどれほど恐怖か、示している。
高江に、CH53大型ヘリが墜落、炎上したのはつい10月のことだ。米軍機の事故は住民にとって常に命の危険と隣り合わせだ。住民らは防衛省に抗議し、米軍北部訓練場にある全てのヘリコプター離発着帯(ヘリパッド)の撤去を求めた。
オスプレイの離発着帯(通称オスプレイ・パッド)は、キャンプ・シュワブの5カ所をはじめ高江12カ所、伊江島6カ所など、名護市の周辺に50カ所以上もある。
それらに加え、4カ所のオスプレイパッドを新設し、100機のオスプレイを想定しているのが辺野古新基地なのだ。普天間基地に配備されている24機のオスプレイが県民に与えている被害を考えれば、辺野古新基地がどれほど住民に被害を与えるか、明白だ。
防衛省によれば、米海兵隊輸送機オスプレイ(MV22)の10万飛行時間当たりの重大事故発生率が9月末時点で、3・27である。普天間基地に配備される直前の2012年9月末と比べ、オスプレイの事故率は約2倍になった。
沖縄県は日本の国土面積のわずか0.6%、名護市は同じく0.05%に過ぎない。この狭い空間を欠陥機オスプレイが飛び交うことを許せるはずがない。
オスプレイは独特の振動を伴う低周波騒音の発生源としても知られる。
音は、人間が聞くことのできる範囲は20ヘルツ~20キロヘルツの間。100ヘルツ以下を低周波音、人間の耳で聞き取れない20ヘルツ以下を超低周波音という。低周波音は、建物のがたつき、振動のほか、頭痛や吐き気、耳鳴りやイライラ、不眠など人体に多大な影響を与える。低周波音による被害の深刻さは、従来の騒音測定だけではとらえられない。
普天間爆音訴訟の高裁判決は低周波音の心身の被害との因果関係を認めたが、それでも安倍政権はオスプレイの配備・辺野古新基地建設を強行する。
渡嘉敷健琉球大学准教授(環境工学、騒音)は、普天間や辺野古などで低周波騒音の観測を続け、オスプレイや軍用機騒音の現状を国内・海外に訴え続けている。
今年1月、渡嘉敷氏が辺野古の国立沖縄工業高等専門学校の屋上に設置した計測器がオスプレイの低周波音を記録した。周波数20ヘルツで音量101・7デシベルを記録する最大級の大きさだった。
しかしその辺野古の国立高専の騒音測定器の設置許可の継続が認められなくて現在は設置していない。それならば、高専自らが騒音の現状を認識して騒音測定器を設置する考えはあるのか。
渡嘉敷氏は2011年に普天間第2小学校で、閉め切った教室にさえオスプレイの低周波が入ってくる事実を確認した。辺野古の子どもたちが心配だと、次のように話す。
「子どもが一番の被害者。どういう環境で学ばざるを得ないかを政府は考えてほしい。うるさくて先生の声が聞こえない状況にある。学習離れのきっかけになっているかもしれない」
渡嘉敷准教授が2年前に公表した「名護市小中学校による米軍基地の航空機などの音に関するアンケート調査」の報告書がある。
授業を受けているときに飛行機やヘリコプターの音が気になったことがあるかとの質問に、「よくある」、「ある」と答えた割合は58%に上った。オスプレイと他の飛行機の音ではどちらがうるさいかとの質問には73%が「オスプレイ」と答えた。オスプレイの音を聞いて怖いと思ったり、嫌な気持ちになったことがあるかとの質問には「よくある」13%、「ある」25%だった。
自由記述欄では、「耳にゴーンと音が入ってくる」「先生の声が聞こえない」「落ちてこないか不安」「騒音で眠れない」、さらには「辺野古に基地ができたら毎日騒音に耐えなければならない」という書き込みもあった。
渡嘉敷氏は「低周波音は防ぐことはむつかしい。効果的な対策は音源を断つこと、つまりオスプレの配備を止めることだ」と強調する。
日米両政府が辺野古に新基地を造るのは、近くに「辺野古弾薬庫」があるからだと多くの名護市民はみている。それを裏付けるように、辺野古新基地には「弾薬装填エリア」がつくられる。
米海兵隊の内部文書「自然資源・文化資源統合管理計画」が、普天間基地の代替施設に関連して「キャンプ・シュワブおよび辺野古弾薬庫を再設計・拡張する」と明記していることが地元紙で報道されてもいる。
沖縄では、米軍の弾薬庫は嘉手納と辺野古の2カ所しかない。辺野古弾薬庫を巡っては、過去に核貯蔵、毒ガス貯蔵の疑惑が浮上した。名護市議会が辺野古弾薬庫「核貯蔵庫」の撤去を求める決議を採択したこともある。新基地の「弾薬装填エリア」が辺野古弾薬庫と絡んで、米軍にどう運用されるのか。不安は尽きない。
今月13日、「核兵器から命を守る沖縄県民共闘会議」の結成総会が開かれ、山内徳信共同代表(元参院議員)は「県民的で島ぐるみ的な態勢をつくり、世論の力で核兵器について明らかにする必要がある」と訴えた。
辺野古新基地は、安倍政権がいうような普天間基地の「移設」どころの話ではない。オスプレイは100機、弾薬庫付き、強襲揚陸艦も接岸できる港湾機能が整備される、耐用年数200年の巨大基地だ。
ジュゴンやハマサンゴなどの宝の海を埋め立て、人間の命と人権を脅かす米軍基地建設を安倍政権は強行し、名護市民・沖縄県民は怒りを爆発させている。「基地があるから米軍の事件、事故が絶えない。もうこれ以上、米軍基地はいらない」
12月1日、元海兵隊員で米軍属の男に対する判決公判があった。裁判長は求刑通り無期懲役を言い渡した。事件は昨年4月に発生した。元海兵隊員は殺人や強姦(ごうかん)致死などの罪に問われていた。
未来を閉ざされた20歳の女性の父親は米軍基地の撤去を求め続けている。第2回公判で代読された母親の意見陳述は心に響く。耳を澄ませてきいてほしい。
〈母親意見陳述全文〉
私の一番大事な愛しい一人娘を失って一年余りが過ぎました。今だに心の整理がつかず写真や笑顔を想い出すたび涙があふれ、やるせない気持ちです。
娘の笑顔がすべてでした。母の喜びでした。楽しい人生が送れるようにと願ってました。その願いも叶いません。人間の心を持たない殺人者の手で想像しがたい恐怖におびえ、痛み、苦しみの中でこの世を去りました。悔やみます。悔しいです。悲しすぎます。
無念で胸が張り裂ける思いです。私はこれから先、怒り、憎しみ、苦しみ、悲しみをずっと胸に何の生きがいもなく、楽しみもなく、悲しみだけで、ただ、ただ生きて行くだけです。
毎日、安らかに眠るようにと仏前に祈ることしか出来ません。娘は二十年しか生きる事が出来ませんでした。娘の命を奪った殺人者は、生かしておくべきではありません。地獄であえぎ苦しみつづける事を心から願います。
私の心は地獄の中で生きてます。