【沖縄とともに】

星英雄:いま名護で何が起きているか 全会一致決議の波紋〈2018沖縄レポート⑤〉

 辺野古新基地建設のカギを握る名護市で、一つの市議会決議が波紋を広げている。安倍政権・沖縄防衛局が新基地建設を進めるうえで避けては通れない美謝川の河口変更、辺野古の浜の埋め立てに「待った」をかける市議会の決議が、自民党、公明党を含む全会一致で決議されたのだ。

 名護市議会の全会一致決議は3月28日。正式名称は「大浦湾・辺野古の海の自然と辺野古唯一の砂浜を守ること、台風時の辺野古の浸水被害を守り、キャンプ・シュワブ周辺の文化財を守ることを教育長と市長に求める決議」。

 決議文にはこう書いてある。「今、国は大浦湾を埋め立てるために、美謝川の河口変更を市長に求めようとしています。一方、辺野古川河口の潟と唯一の砂浜を作業ヤードとして埋め立てようとしています。大浦湾と辺野古川河口を埋めることは市民・県民・国民、世界にとってかけがえのない大切な宝を失います」

 政府の埋め立て計画が進行すれば、美謝川の河口がふさがれる。そのため、「美謝川の河口変更」は絶対条件で、政府も計画変更の構えだ。しかし、変更を認めるか認めないかは、名護市長の権限。変更が認められなければ新基地建設はとん挫する。そのため、稲嶺前市長時代には計画変更の申請をできずにきた経緯がある。

 埋め立て工事に必要な作業ヤードをつくるため辺野古の浜を埋め立てることは地元住民が許さない。辺野古はこれまでも台風時には床上浸水などの被害をこうむってきた。辺野古河口周辺を埋め立てれば、台風時には辺野古集落の浸水が深刻になる。「浸水地域が拡大し、低い土地に建っている家は危険が増す」と辺野古住民は不安を隠さない。みんなが楽しみにしている辺野古の伝統行事、チームをつくって競漕するハーリーができなくなる。

名護市役所

 新基地建設賛成の自民党を含む全ての市議が、美謝川の河口変更や辺野古の浜の埋め立てに反対することになる決議に賛成した背景には、こうした事情がある。その全会一致の決議は、渡具知市長にこう迫っている。

 「地方自治は憲法に保障されたものです。現在、国と地方公共団体は対等であります。市長は法令にのっとり新基地建設に対応することを表明されています。市長権限が明確にされた河川法と条例にのっとって美謝川の河口変更を認めず大切な大浦湾・辺野古の自然を守ることを求めます。漁港法と条例にのっとって辺野古漁港の管理権を行使して、辺野古唯一の砂浜と辺野古区を水害から守るために法にのっとり市長権限を行使していただくことを決議します」

 新基地建設の地元・辺野古、豊原、久志の「久辺3区」は名護市の中でも「条件付き容認派」が多いことで知られている。「政府に逆らっても、基地を造られるなら・・・」という諦め感が強い地域だ。安倍政権が稲嶺市長時代の名護市を通さずに直接補助金を渡したのも、そこに付け込んでのことにほかならない。

 辺野古の代表的な「基地容認派」の人物に、この決議全文をみてもらった。もちろん、渡具知武豊市長を支持している人物だ。「(新基地建設を)止められないなら、条件を付けるのは当たり前」と言っていたが、決議文を読み進むうちに顔色が変わった。「Mに確かめたい」と言った。Mとは、辺野古を地盤とする名護市議会議員、新基地建設を推進する立場の市議である。

 稲嶺進前市長が敗れ、渡具知武豊氏が市長に就任してから3カ月が過ぎた。衝撃的な市長選の結末だったが、その後の名護市が新基地建設を積極的に推進しているわけではない。身動きが取れない状態にある、と言っていい。

 渡具知市長は2月に東京に出向き、安倍首相らと会談した。政府は渡具知市長の要請にこたえ、名護市に中央の官僚を送り込み、再編交付金を渡した。だが渡具知市長は新基地建設について、本音は別としても「容認でも反対でもない」として態度を明確にできないでいる。

 そこに、美謝川の河口変更などに反対する市議会の全会一致の決議である。

 決議案提出議員の1人、大城敬人市議は全会一致決議の重みをこう話す。
「この決議は、市長の権限行使を求める決議です。それを、全会一致で可決した意義はきわめて大きい。新基地に対する名護市民の総意を反映しているといえます。この全会一致の決議に反することを渡具知市長が行えば、大変な事態になるでしょう」

星英雄:いま名護で何が起きているか 全会一致決議の波紋〈2018沖縄レポート⑤〉” への1件のコメント

  1. 明らかに市議選がらみと受け取ります。市長選の際の出口調査では、辺野古の海埋め立て反対の人が多くありました。自公がそれを無視して埋め立て推進の立場はとれないと言う事でしょう。ともあれ、確かに民意は海埋め立て反対なのだから、この全会一致の決議に反することを渡具知市長が行えば、大変な事態になると私も考えます。

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