なぜ日本では米朝首脳会談に抵抗が強いのか。核戦争の危機さえ取りざたされたアメリカと北朝鮮が一転、朝鮮半島の平和構築を模索し始めたことを世界は歓迎してるというのに。朝鮮半島が平和になると、日米同盟の意義が根本から問われることへの不安が強い。北朝鮮脅威論に染まった国民の広い層がある。だが、日米軍事同盟にしがみつき、対米一辺倒、「トランプのポチ」といわれる安倍首相は朝鮮半島の平和構築、東アジアの平和秩序の形成に何の役割も果たせなかったことを直視すべきだ。日本はこのままでいいのか。
米朝首脳会談についての国内の不満はあちこちにみられる。米朝首脳会談自体は否定しないまでも「うまくいかないだろう」、「うまくいってほしくない」という反応があふれている。
「米朝会談、自民から疑問」の大きな見出しで報じたのは朝日新聞16日付けだ。自民党の外交・国防部会、拉致問題対策本部などの合同会議でCVID(完全かつ検証可能、不可逆的な非核化)が合意文書に明記されなかったことなど、米朝首脳会談への疑問や批判が噴出したという。
自民党が不満をあらわにしただけではない。安倍政権も、小野寺防衛大臣が「脅威の見積もりは変わっていない」と発言すれば、 河野外務大臣も日米韓外相の共同記者会見で、米韓軍事演習が北東アジアの安全保障に重要な役割を果たしていると発言した。
両大臣の発言は、この間の安倍首相の対応を見れば、不思議はない。米朝衝突が危惧された昨年、安倍首相はただの1度も、米朝間の緊張緩和のために動いたことはない。日本や朝鮮半島を戦場にするな、人々の命を犠牲にするなと、主張したことはない。
安倍政権は北朝鮮の脅威をあおることで日米軍事同盟強化、自衛隊の増強をはかってきた。歴代政権のなかでも、「北の脅威」をあおり、利用したことでは突出している。「国難突破解散」などと、北朝鮮の脅威を利用して昨年総選挙に打って出たことも記憶に新しい。これらの事実を忘れるわけにはいかない。
新聞・テレビもCVIDが具体的でない、共同声明に「拉致問題が盛り込まれていない」など、おしなべて疑問を並べ立てている。しかし、北朝鮮の非核化を求めることは当然としても、米朝首脳会談は、北朝鮮の非核化のみをテーマに開かれたわけではない。もっと大きなテーマが目的なのだ。
米朝首脳の共同声明自体が会談の意義についてこう指摘している。「トランプ氏と金正恩氏は、新たな米朝関係の構築と、朝鮮半島の永続的かつ強固な平和体制の建設について、包括的かつ綿密で真摯(しんし)な意見の交換をした。トランプ氏は北朝鮮に安全の保証を与えることを約束し、金正恩氏は朝鮮半島の完全な非核化に向けた確固とした揺るぎない責務を再確認した」──。
トランプ大統領は記者会見で「朝鮮戦争がまもなく終わる」という希望を語り、米朝対話が続く間は米韓軍事演習を中止すると表明した。その後、米韓軍事演習は正式に中止が発表される事態となったのである。
朝鮮戦争が終結することは、日本にとってどんな意味があるのだろうか。
朝鮮戦争は、憲法9条を持つ日本がアメリカによって軍事化を強いられる契機となった。朝鮮戦争こそ、日本の安全保障政策、ひいては日本という国を形づくった、歴史的な大事件だったのだ。
1947年5月3日に日本国憲法は施行された。ところが3年後、1950年6月に朝鮮戦争が開始され、その1カ月半後には今の自衛隊の前身、警察予備隊が創設された。1951年9月にはサンフランシスコ講和条約、旧日米安保条約が調印された。講和条約も安保条約も、国連軍という名の米軍への協力がうたわれていた。米軍は連日、日本の基地から朝鮮半島に飛び立っていったのだ。
こうして日本は、経済的にはそれなりに繁栄したが、アメリカの従属的同盟国とされたのだ。その朝鮮戦争が終結すれば、日米安保条約も、したがって沖縄の米軍基地も問われることになる。まして、辺野古新基地建設の理由がなくなることも明白ではないか。
安倍首相は小泉内閣の官房副長官の時から、対北朝鮮強硬派としてしられる。「北朝鮮のようなちっぽけな国は、締め上げればすぐに音をあげる」という考えで、拉致問題に関わってきた。安倍氏の姿勢は、侵略戦争も植民地支配も認めたくない右派勢力や拉致被害家族らに支持され、「首相への道」を切り開いたというのが政界の定説だ。
拉致問題を利用して首相の座にのしあがっただけに、いま拉致問題の解決に「政権の命運がかかっている」とまで言われる。しかし、安倍政権の拉致・北朝鮮政策はすでに破たんしている。政権の最重要課題とされる拉致問題の橋渡しをトランプ大統領に懇願すること自体、破たんの証明ではないか。
安倍政権の拉致問題政策は、「拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はありえない」というものだ。北朝鮮に拉致されたかどうか、不明な者まで含めた「拉致被害者」全員が生きているという仮定にたっている。これに合わない北朝鮮の「調査結果」は受け取らない。
拉致問題を極大化し、日朝2つの国の正常化交渉の入り口に置くやり方は、拉致問題の解決をもたらさなかった。日朝平壌宣言からすでに16年も経ようとしているのだ。
米朝首脳会談が実現したことには大きな意味がある。「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」といって先制攻撃も辞さない姿勢をみせていたトランプ大統領だったが、結局、多くの犠牲、特に米国人の犠牲を払ってまで戦争はできない。気まぐれなトランプ大統領ではあるが、アメリカの国力低下を意識している。オバマ前大統領が、「世界の警察官」役を放棄しようとしたことに通じるものだ。しかし負担は、同盟国へというのがトランプ流でもある。「トランプのポチ」と言われている安倍首相は米国製兵器の購入など、負担を引き受けようとしている。
金正恩委員長も、国際社会のなかで普通の国として、北朝鮮をもう少し豊かな国にするために舵を切ったように思う。それを韓国、中国が後押ししている。
米朝和解は、日米同盟の根本問題を浮上させた。日米同盟の核心は、日本がアメリカの核の傘を頼ることだ。日本自身は核を保有しないが、アメリカの核で北朝鮮を威嚇してきた。しかし、米朝が朝鮮戦争を終結させ、和解すれば、アメリカが北朝鮮を核で威嚇することは不要になる。
安倍首相が、たとえ朝鮮半島や日本が戦場になりかねない情勢でも、「最大限の圧力」を言い続けたのは米朝接近を妨げるねらいがあったとみて間違いないのではないか。
日本も米朝和解の後押しをしよう。朝鮮半島の非核化・平和は日本の非核化・平和に通じる。