【連帯・社会像】

星英雄:「救済なき権利」を突き崩そう 韓国大法院判決に思う

戦後の日本の歩みを問い直す出来事が相次いでいる。韓国の大法院(最高裁)判決が日本企業に賠償命令を突きつけた問題。安倍首相が、戦後これまでの自民党政権の破たんを認めずに方針転換したロシアとの領土問題。どちらもアメリカの戦後対日政策と深くかかわった問題だ。そして、戦後処理の際、日本から切り捨てられた沖縄の「辺野古ノー」の声は、日々戦後日本の在り方を問い続けている。韓国の大法院判決の問題を考えてみたい。

韓国の大法院は11月29日、韓国人元徴用工らが損害賠償を求めた2件の訴訟の上告審で、三菱重工に賠償支払いを命じた。10月30日の大法院判決が、新日鉄住金に賠償を命じたのに続き、これで3件になる。

残念なことに、先月の大法院判決以降日本国内は「韓国はけしからん」といった反韓感情が噴出しているようだ。なかでも安倍首相と河野外相の反応は突出した異常さだった。安倍首相は10月30日の衆院本会議で、「国際法に照らしてあり得ない判断だ。毅然として対応する」と叫んだ。河野外相は韓国の駐日大使を呼び、「日韓の友好関係の法的基盤を覆すものだ」と韓国を威圧した。29日の大法院判決にも激怒して韓国を非難し続けている。

ことは、戦時中に徴用された被害者の人権救済だ。「日韓請求権協定で解決済み」と言って済ませることができるのか。国家が個人の人権回復の道を閉ざせるのか。

「 安倍政治ノー」を掲げる立憲民主党など野党の反応が鈍いことも、「反韓ナショナリズム」の横行を許してはいないか。韓国・アジアとどう向き合うのか。唯一といっていい共産党の対応も、前向きではあるが解せない。

11月13日付けしんぶん赤旗は、志位共産党委員長が「被害者個人の請求権は消滅していない」ということは日本政府と最高裁、韓国政府と大法院の4者が一致しているので、「前向きの解決のために努力すべき」と述べた、と報じた。共産党が「共闘」を求めている日本政府こそ、「日韓請求権協定で解決済み」と叫び、大法院判決を「暴挙」と非難しているのではないか。

日本政府は個人の請求権を認めているのか。11月14日衆院外務委員会、共産党の穀田議員は「(日韓)請求権協定で個人の請求権は消滅したのか消滅していないのか」と迫った。1991年8月27日参院予算委員会での柳井外務省条約局長(当時)の答弁をよりどころにしている。

河野外相はこう答弁した。「個人の請求権が消滅したというわけではないが、個人の請求権を含め、日韓間の財産請求権の問題は日韓請求権協定により完全かつ最終的に解決済み」

外務省条約局の後身である国際法局の三上局長は、柳井答弁に触れつつ答えた。「日韓請求権協定により、一方の締約国の個人の請求権に基づく請求に応ずべき他方の締約国及びその国民の法律上の義務が消滅し、その結果、救済が拒否される」、「権利自体は消滅していない。しかし、裁判に行ったときには、それは救済されない、実現しません」

韓国の中央日報電子版(日本語)は、日本政府は〈「個人の請求権を含む日韓間の財産請求権問題は請求権協定で解決された」という従来の主張を繰り返した。〉と報じた。

日本政府の対応はこれまでと変わらない。個人の請求権について「権利自体は消滅していないが救済されない」、「日韓請求権協定ですべて解決済み」というのが政府の論理だ。外務省・政府は「救済なき権利」と称している。個人の請求権を実現するために崩すべきはこの「論理」なのだ。

「1965年体制」の破たん、と韓国内でいわれるようになった。1965年に、日韓基本条約、日韓請求権協定が結ばれ、戦後の新たな日韓関係がスタートした。その破たんがとりざたされるきっかけは、2012年5月24日の大法院判決だった。

大法院判決は不法な植民地支配を糾弾し、サンフランシスコ条約に基づく日韓請求権協定に個人の請求権はふくまれていないと、以下のように言う。
「日帝強占期の日本の韓半島支配は規範的観点から不法な強占に過ぎず、日本の不法な支配による法律関係のうち、大韓民国の憲法精神と両立しえないものはその効力が排斥されると解さなければならない」
「請求権協定は日本の不法な植民支配に対する賠償を請求するための取り決めではなく、基本的にサンフランシスコ条約第4条に基づき、韓日両国間の財政的・民事的債権・債務関係を政治的合意によって解決するためのものであったと考えられる」
「日本の国家権力が関与した反人道的不法行為や植民支配と直結した不法行為による損害賠償請求権が請求権協定の適用対象に含まれていたと解することは困難」(日弁連ホームページの仮訳から)

日韓関係を定める両国の交渉で最大の問題となったのは、日本の植民地支配の確認だ。「韓国併合条約」などは本来無効とする韓国側と、「もはや無効」との文言で、それまでは合法とする日本側。結局、植民地支配の問題は棚上げされた。日韓両国内では強い反対運動が起きた。とりわけ韓国で。

日本による韓国(朝鮮)植民地支配はどこからみてもおぞましい。韓国の人々の怒りを共有したいと思う。

1895年、国王の妃、閔妃(ミンビ)を虐殺。皇帝をおどすなどして1905年には力ずくで保護条約を受け入れさせた。

1910年には韓国併合条約で植民地とした。日本は韓国の植民地化をごまかすために、「併合」という言葉をつかったが、その意味について当時の外務省高官は「韓国が全然廃滅に帰して帝国領土の一部となる」(韓国という国がすっかり滅んでなくなり、日本帝国の領土の一部となる)ことだと明かしていた。(中塚明『これだけは知っておきたい日本と韓国・朝鮮の歴史』114p)

日本が侵略戦争を拡大するとともに創氏改名などの皇民化政策を遂行、日本の侵略戦争に朝鮮(韓国)人を動員した。労働力不足のため、朝鮮(韓国)人に対する徴用を実施した。朝鮮の人々は日本の植民地支配と侵略戦争によって多大な犠牲を強いられたのだ。

被害者らが補償を求めるのは当然である。国家間の取り決めで、個人の請求権をなかったことにはできない。それが世界の流れだ。そして、韓国内には当時から鋭い批判と問題提起があった。

「証拠がある民間の請求権を韓日協定のようなもので政治的に放棄し解決することは不可能であり、それは必ずや訴訟問題にまで波及せざるを得ない」(太田修『新装新版 日韓交渉 請求権問題の研究』284p)。この批判が50年を経て、まさに現実となりつつあることを韓国大法院判決は示しているといえる。

日本は植民地支配を詫びてはきた。しかし、実を伴っていない。

村山首相は談話で、「植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします」と言った。

小渕首相は韓国の金大中大統領との「日韓共同宣言ー21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ」で、 「我が国が過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受けとめ・・・痛切な反省と心からのお詫び」を述べた。

安倍首相も戦後70年談話で、曲がりなりにも「歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎない」と述べたのではなかったか。

日本は、反省やお詫びを実のあるものとし、植民地支配と人権侵害、過去の不正義を自ら正す責任がある。国連をはじめとする国際社会は人権尊重の視点から過去の不正義を正そうとする動きが趨勢になっている。人権・個人の尊厳の尊重は、日本国憲法の核心的思想である。

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