【合田寛「一語一会」】

合田寛:アベノミクスの「隠された矢」

安倍内閣が掲げるアベノミクスは、大胆な金融緩和、公共事業を中心とした機動的財政政策、民間投資を喚起する成長戦略からなる「三本の矢」を柱とする政策を動員し、デフレ不況からの早期脱却を図ることをうたっている。「三本の矢」の効果かどうか、株式市場は活況を呈し、為替市場では円安の方向に向かい始めた。これでデフレも解消に向かうのではないかとの明るい期待も国民の一部には出てきている。

 しかしよく考えてみよう。安倍内閣が断行しようとする経済政策の「1丁目1番地」には、昨年野田内閣が敷いた「社会保障と税の一体改革」路線の具体化、すなわち消費税の大増税と社会保障の切り捨ての実施があるはずだ。すでに消費税は来年4月の税率引上げに向け準備が着々と進められており、社会保障国民会議も今年初め再開され、夏に向け給付抑制や負担増など改悪のメニューが検討され始めている。

 こうしてみると「三本の矢」はあくまでアベノミクスの表看板であり、その裏には隠されたもう一つの矢がある。その「隠された矢」とは消費税大増税と社会保障の切り捨てであり、国民に向けられた「毒矢」である。国民のふところへの衝撃度から見ると、むしろ政策の第一の矢とも位置づけられるものである。 したがって「三本の矢」だけを見て、しかもそれを1本1本バラバラにしてみるだけでは、アベノミクスを正しく評価することができない。

じっさい「三本の矢」は「社会保障と税の一体改革」と表裏一体の関係にある。たとえば「三本の矢」の第一の矢は、2%の物価目標を掲げ日銀に無制限に金融緩和をやらせようというものである。しかしこれは消費税増税法が増税の実施にあたって、名目3%、実質2%の成長率の達成を努力目標としていることから、増税実施の環境を整えようという意図を持っている。 また第二の矢である公共事業を中心とした財政規模の拡大も、その財源として消費税の税収を当て込んでいることはいうまでもない。

第三の矢である成長戦略も、その内容は現在、産業競争力会議で審議されているが、財界要求を受け入れ法人税減税を含むことが当然予想される。 アベノミクスは「三本の矢」とその背後にある「隠された矢」を一束の政策としてとらえる必要がある。「三本の矢」にはインフレターゲット政策や放満財政など副作用や毒のある政策が含まれているが、その矢で「社会保障と税の一体改革」の毒を帳消しにしようとするのなら、それはあたかも「毒を持って毒を制する」ものであろう。

後世の歴史家はアベノミクスを「マッチポンプ政策」と呼ぶかもしれない。しかしポンプで消火できる程度の火事であればまだしも、バブルの再来と財政の破たんで日本経済をいっそうの混乱に陥れる危険もはらんでいる。

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