【福島・沖縄からの通信】

星英雄:オスプレイはつくられてはいけない兵器なのだ〈沖縄レポート④〉

 MV22オスプレイの強行配備にたいし、基地周辺住民は「ブルブル」という特有の重低音・低周波音の健康被害を訴える。だが、国はもちろん、沖縄県の対応も鈍い。オスプレイの低周波音について、「国に説明を求めている段階。(人体への影響についても)データ不足」(基地対策課)という。そんななか、警鐘を鳴らしつづける学者がいる。

 1月27日夜、那覇市の県立博物館。沖縄ジュゴン環境アセスメント監視団主催の「辺野古アセス補正評価書の徹底検証」シンポジウムが開かれた。名護市・辺野古への新基地建設をやめさせる運動の一環だ。オスプレイが発する低周波音の問題について琉球大学の渡嘉敷健准教授(環境工学・騒音)が報告した。各地で記録した低周波音が、国の基準さえ超えて住民に健康被害をもたらしていることなどを指摘した。

那覇市のシンポジウムで報告する渡嘉敷准教授

    渡嘉敷さんが測定したオスプレイのデータがある。

  2012年10月12日、国立沖縄工業高等専門学校屋上。周波数40ヘルツで、91.8デシベル。

  同年10月29日、普天間第2小学校の窓を閉めた教室内。20ヘルツで90・9デシベル。

 同年11月16日、金武町の琉球リハビリテーション学院。40ヘルツで90・8デシベル。

 同年11月14日、宜野湾市真栄原。20ヘルツで86・6デシベル。

 これらのデータから重要なことがわかる。「オスプレイは航空機騒音と低周波音の両方で高いデータを示したことになる」と渡嘉敷さんは話す。

 人間が聞くことのできる音の範囲は20ヘルツ~20キロヘルツの間とされている。そのなかの100ヘルツ以下を低周波音、人間の耳で聞き取れない20ヘルツ以下を超低周波音という。

  音の大きさ、うるささはデシベルであらわされる。100デシベルは電車が通るときのガード下のうるささ、80デシベルは地下鉄車内で窓を開けたときのうるささにたとえられる。この騒音が、沖縄では日常の生活の中にある。それがどれほど耐え難いことか、理解するのはそれほどむつかしくはない。

 他方、低周波音は、建物のがたつき、振動のほか、人体に重大な健康被害をもたらす。音は感じなくても頭痛や吐き気、耳鳴りやイライラ、不眠など多大な影響を与える。重いケースでは、脳や内臓が揺さぶられる状態になるという。

 オスプレイは低周波音と騒音の2つとも、人体にとってきわめて有害な輸送機なのだ。

 2010年、普天間爆音訴訟の控訴審判決は、ヘリ特有の低周波音と精神的被害の因果関係を認めた。しかし、それにはお構いなしに政府は米軍機オスプレイの配備を受け入れた。防衛省の環境影響評価書だって、CH46ヘリなどよりオスプレイのほうが低周波音の値が大きいことを明記している。そのことだけでも、オスプレイの配備は認められないはずなのに。

  「高い音は制御しやすいが低い音は制御できない」。渡嘉敷さんは低周波音の特性を指摘する。

  実は、普天間第二小学校は遮音効果が高いとされる1級防音工事がされている。それにもかかわらず、 低周波音は教室内に入ってきていたことが、渡嘉敷さんによって実証された。教育現場への影響は甚大だ。

  このことは何を意味するのか。低周波音の問題解決は、音源をなくすしかない。つまり、オスプレイの配備撤回、基地撤去が必要ということなのだ。

 通常の航空機騒音計は低周波音を測定するようにはつくられていないのが現実だ。低周波音にたいする規制はないに等しい。環境省は工場などが発生する低周波音については参照値をさだめているが、指針にすぎない。航空機にはそれもない。まして米軍機にたいしては。

 「オスプレイの低周波音についていま調査しなければたいへんな健康被害をもたらす」。そんな思いが渡嘉敷さんを調査に駆り立てている。

 沖縄県民はCH46ヘリなどによる低周波音被害をこうむってきた。それよりもはるかに危険が大きいのがオスプレイだ。渡嘉敷さんはこう指摘する。「CH46も低周波音を発生させているが、20ヘルツ以下の超低周波音は観測されていない。超低周波音はオスプレイの発生騒音の特性なのだ。それは、オスプレイがエンジン音と大きな二枚のプロペラの回転などでより低周波音を発生する構造になっているからで、人体への影響を考えると、オスプレイはつくってはならない航空機だと言える」

  「屋根の上すれすれに飛ぶオスプレイは怖い」。こういって宜野座村城原区の泉忠信さん(82)は自宅の屋根を指差した。

 泉宅は米軍キャンプ・ハンセンのオスプレイ着陸帯(ヘリパッド)から370メートル。近くには小学校が2つある。その上空をオスプレイはなめるように旋回する。

泉さんは屋根を指差してオスプレイの恐怖を語った

「音の大きさはこれまでのヘリコプターの倍に感じる。窓のアルミサッシ、テーブルががたがた揺れる」。オスプレイの低周波音の影響をこんなふうに話す。

  低周波音もすごいが、それだけではない。「真上を飛ぶオスプレイが家にぶつかるとか落ちるとかするんじゃないか。とくに、オスプレイが夜飛んでくると家中に明かりをつけて、ここは民家だぞーって、操縦士に知らせるんだ。もう、生きた心地がしない」

 泉さんの庭には、渡嘉敷准教授の勧めで騒音測定器を設置した。ここでの測定値は、「城原区の民家で測定された騒音が、最大98.9デシベル(電車通過時のガード下に相当)を記録した」(琉球新報)と地元紙に報じられ沖縄に広がっている。

  2月半ばから、宜野座村が泉宅に騒音測定器を設置した。いまやオスプレイの騒音を告発する観測拠点となっている。

 データの収集は抗議活動に生かされている。城原区の全80世帯は怒りを爆発させて、沖縄防衛局に3度抗議した。宜野座村長と村議らも、オスプレイの配備撤回を求める村議会の決議を携えて沖縄防衛局に抗議した。その後、オスプレイは泉宅の真上を避けるように飛んでいるという。

 「このデータは証拠ですから」といって、泉さんはつづけた。「政府は無駄な税金をつかって、沖縄に基地を押し付けているが、米軍は自分の国に帰ってもらいたい」

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